『やがて明日に至る蝉』発売記念!ひの宙子インタビュー!②創作の源は「思いつき」と「怒り」(全3回)

2023/04/25『やがて明日に至る蝉』発売!振り幅が大きすぎる短編集と話題ですが、今回は表題作以外の2作について、著者・ひの宙子さんにお聞きいたします。
株式会社シュークリーム(マンガ編集プロダクション) 2023.04.26
誰でも

「折り合いというもの」「外からではわからないこと」をどうにか希望の話として描きたい

┈┈「折って切らない。」は女子高生同士の賑やかな会話から入りつつ、父親との折り合いが悪い男の子や、やり場のない「好き」という感情を描く奥行きの深い作品になっています。こちらも、着想から執筆に至る経緯を教えてください。

昔よく創作漫画アンソロジーを企画主催してコミティアに出していたんですが、その中に"愛と性"をテーマにした回があり、そこに描いた同タイトルの漫画が元になっています。

このアンソロジー、制作まわりのすべてをやりながらその原稿も描く…それも『グッド・バイ・プロミネンス』最終話と並行で…ということをしていました。

いま思うと狂気の沙汰なんですが…数年前の作品ということもあるし、当時も描ききれなかったな〜と思うところはあり、機会をいただけたので自作品を再解釈しながらリテイクしました。

冒頭がああなのは、すでにこのタイトルがついていた8pのネームがあって、それがマックの女子高生が言ってたんだけど構文がTwitterで流行っていた時に描いた、えっちゃん→るみの感情の部分だけの小話だったからです。

"愛と性"というテーマを考えた時に「折り合いというもの」「外からではわからないこと」を、どうにか希望の話として描きたいと思って、このふたりだけじゃない話をきちんと描くことにしました。

大喜利的お題から生まれた『ホタテガイの女』

┈┈垂涎必至のグルメ漫画「ホタテガイの女」、しかもまさか続編「タラバガニの男」が数年越しに描かれるとは!? 2作の創作秘話を教えてください。

『ホタテガイの女』は、前担当であるNさんと作っていた中にオムニバスの世界線から外れたものでお蔵入りになっていたもののひとつが元になっています。「わたしは大喜利タイプなので適当なお題をください」「貝」という会話から始まった話でした。

よしじゃあタイトルは『ホタテガイの女』だ!となって、あの導入がバン!と先に決まり、そこから話を作っていこうとなりました。読切制作は大抵勢いで始まります。

当時は恋愛絡みの話というオーダーが前提にあったので、ここに恋愛要素を持ち込むには…と真剣に考えまして、結果「花村さんは下の階に春まで住んでいた男のマイルドストーカーで、かつて男の暮らした部屋を見てみたかったのである」などという筋書きになりました。Nさんの名誉のために申し添えますが、冒頭ネーム+口頭で伝えた時点で「それは……どういう……」という反応でした。

で、そうこうしているうちにオムニバスの方のネームが進んで連載になり、話を詰めるタイミングを逸してタイトルと冒頭とキャラクターのみが宙ぶらりんになっていた『旧ホタテガイの女』の、恋愛要素を彼方にぶんなげ好き勝手に仕上げたのがこちらになります。

ホタテを焼く取材は旧の時に済ませてありましたので、サクッと描けました。

内容的には、わたし自身が食べること&調理という行為そのものが好きなので、そういうところがよく出ているなーと思います。

続編の『タラバガニの男』は、あと一作描けば一冊にできるというところで、じゃあ描くならこれだ!とすぐに決まりました。以前から続編描きたいな〜と思っていて、小ネタもいろいろあったので。

ただタラバガニは…なんでタラバガニになったんだか…ホタテの最後で牡蠣の流れだったので、牡蠣は絶対なかったんですが。おそらく、漫画に描けば経費で食える・カニが大好き・『タラバガニの男』の語呂がよくて愉快、というあたりからではないかと思います。

真面目に調べてみると茹でじゃなくて生があり…焼きガニが美味い…など題材としても非常に面白かったので手応えを感じて、取材&制作に踏み切りました。

この、神成さんと遂行したタラバガニを食うぞの取材が非常に楽しくて、その時のエピソードと興奮が作品に絶大な影響を及ぼしました。取材って…こんなに大事なんだ…!!!!!!と実感した出来事です。

あと、制作が最果てのセレナードと並行だったので、スケジュール的には厳しかったですが本当に癒しでした。三好くん、真木さん、高橋くんにもそれぞれ考えている話があるので、機会があればまたこのシリーズは描くかもしれません。

創作の源は「これやったら絶対面白い」の思いつきと「怒り」

┈┈さまざまなタイプの物語を生み出せるひのさんですが、読切りはどういうふうに考えられるのでしょう?テーマから、シーンから、キャラクターから…など、ご自身の創作の源や、物語を一本練り上げるまでの行程で好きなところや大変なところなど教えてください!

30ページくらいまでの読切だと、基本的にワンアイデアで場面転換は3回まで入る、という感覚がなんとなくありまして、その中で描けそうなものという条件でまずふるいにかかります。

わたしは「アイデアを形にする」ということが優先するタイプのようで、描きたいこととか、伝えたいことが…とかは物語を作る上では先に立ちません。そのアイデアを使って話を作るならこれが良さそうだ、と自分のなかにあるものから引っ張ってくる感じです。あ、前提として描きたいモノ&コト自体はたくさんあります。

なんとなーく色々と頭に常にあるところに、なんらかの刺激(アイデア)が加わると形になる、というイメージかもしれません。過冷却水をドンてすると氷になるみたいな…

アイデアは、タイトルか、キャラクターふたりとそのシーンであることが多いです。

だけどそれを漫画という形にしていった結果一番最初に頭にあったシーンは消えがちです。分解されて全体に散っていく…みたいな。

創作の源は、「これやったらぜったい面白い」の思いつきと「怒り」だと思います。

自分の感じた面白そう楽しそうに抗えなくて、結果めちゃくちゃ大変な目にあったりするんですけど、素直に従った方がいいものができる手応えがあるので創作ってそういうものなんだと思ってます。連載中に読切描いて単行本二冊いっぺんに出すとかもこれです。

怒りは、ずっと子どもの頃からいろんなことに怒ってて、それが推進剤になるタイプです。今も変わりません。なぜそれに怒っているのか、その怒りの本質は?とか、あの手この手で消化して怒り以外の形に分解再構成できたら物語の素材になります。

物語を作る工程、ネームが一番好きで苦しくて楽しいです。

わたしは基本的に脳みそから直でネームに行くので、粗い初稿を出力してそこから直していくため時間が掛かります。この話で描くべきことが整理されて演出と構成がうまくハマった時めちゃくちゃ気持ちがいいんですよ。感覚的にもネームができたら漫画はもうほぼできている。ネーム工程の唯一嫌いなところは、やってもやっても終わらない可能性があるところです。

逆に作画はやれば絶対終わるので気持ちは楽なんですけど、いかんせん飽き性なので、毎回自分をいかに飽きさせないかに腐心しています…下書き〜仕上げの工程を分けずに気分で進めまくる、が今のとこ一番効いてます。

▱▱▱▱▱▱ 全3回予定! 次回配信は4月27日(木)! ▱▱▱▱▱▱

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『やがて明日に至る蝉』

「君は絶対悪くない。」

性犯罪の被害者と、加害者の弟。この再会は、運命か。

中2の春、ゆうひのクラスに来た転校生は小2まで隣家に住んでいた遥斗だった。ゆうひは遥斗の兄から性被害に遭った過去がある。知られていないと思っていたが、遥斗は「お前はあいつを殺しても罪にならない」とゆうひに持ちかけてきて…?(『やがて明日に至る蝉』より)

痛みに寄り添う渾身作から、垂涎の海鮮グルメ喜劇まで。実力派・ひの宙子の世界を味わい尽くす傑作短編集!

[同時収録]折って切らない。/ホタテガイの女/タラバガニの男

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