W新作誕生記念!ねむようこ×ヤマシタトモコ仲良し対談
絶賛発売中のねむようこ先生の『ボンクラボンボンハウス』、11月8日にヤマシタトモコ先生の『違国日記』が刊行されます。同世代で親交も深いお二人の近い刊行を記念して、初めての対談を行いました。
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ニート、家を作る!
大学を辞めた一樹は、残りの学費200万円で祖母が遺した美容室を「自分の手で」改装して住むことにしたが…!?
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35歳と15歳の年の差2人暮らし。
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「あれ? この子クズじゃない?」
ヤマシタトモコ(以下ヤマシタ):まず、主人公の一樹ちゃんが「あれ? この子…クズ?」って(笑)。「親からもらった200万があったって、親に一泊3000円払って実家でグータラしてる場合じゃないよ!3000円あったら余裕で数日暮らせるだろ!同じ屋根がある場所ならホコリっぽい0円の方に泊まれ!?」ってヤキモキしたよ。
ねむようこ(以下ねむ):一樹、もう出だしから怒られとる…。
ヤマシタ:怒られてないよ(笑)。この子の苦しいこととか悲しいこととかはわかるんだよ。この子がどう変わるのかが、読んでて純粋に楽しみだし。
ねむ:でも、変わらんかもしれない。
ヤマシタ:えっ、このままいく!?
ねむ:一樹はクズなんだけど、「みんながやりたいと思っていても行動には移さないこと」がポンッとできるクズなんだよ。普通は、やりたいこともないのに大学辞めるなんて、やったらいかんって思ってる。だって辞めた後の方が、絶対に大変じゃない。その後、自分の進路をちゃんと決めて突き進めていかないと大変なことになるから、流れに乗っかった方が楽。でも、そこから外れられるのが一樹。
ヤマシタ:ああ、確かになあ。そこまでの勇気、という意味でね。
ねむ:甘えて甘やかされているクズなんだけど、人生は長いから、20歳くらいまでは朗らかに元気なら、このくらいでいても許してほしいっていう気持ちがあります。
ふたりの少女たちへ
——一樹が身近にいたら、お二人はどんな風に接しますか?
ねむ:どうするんやろう。「親御さんなんて言ってるの?」って言う。
(一同爆笑)
△ボンクラボンボンハウス 第1話 親御さんの声
ヤマシタ:とりあえず、もう、もやしメニューとか教えてやるしかない。
ねむ:私たぶん、そういう子がいたら、好きにすればいいさって立ち入らないで、観察するかな。無責任に関わる気がする。
ヤマシタ:なるほど。
ねむ:とにかく、放っておいて大丈夫だと思うの。生命力の強い子だから。
——では、『違国日記』の朝ちゃんには、何を言ってあげますか?
ねむ:朝ちゃんに、何かを言える大人になりたいって思ってたのに、実際に大人になったら、何も言えなさそうな自分がつらい。優しくしたいけど、優しくしきる自信が全然ないから、手を出せないってなっちゃって。若い時は、そういう大人のこと「卑怯」って思ってたのに、大人になるとその卑怯の内訳がわかるっていうか、「大人も無理なんだ」みたいなことがわかってしまいました。
ヤマシタ:無責任なことを言うのも怖いし、保身に回ってしまうみたいな。
ねむ:そうそう。素直に、自分が言いたいことを言えばいいのに、相手が言ってほしいであろうことを探りすぎて言えなくなるみたいな。なるべくほしい言葉を言ってあげたいなって思うけど、見つからなくて言えない。
ヤマシタ:ねむさん、優しい。誠実だなあ。
ねむ:やったー。良かった。クズを描いてますけど(笑)。
ヤマシタ:優しい人が、優しいクズを描いてる…。
ねむ:一樹がもう、オチに使われるようになってしまった(笑)。
ヤマシタトモコと一樹の違い
——お二人は、一樹くらいの年齢の頃どんな感じでした?
ねむ:20歳の時の自分は、短大2年生で卒業の年なんですけど、一樹よりはもうちょっと「ちゃんと」してました。でもそれは何も考えてなかったという意味で。自分の世界の外にそんなに広い世界があるなんて知らないで、道から外れることをやっていいって知らなかった。大人になった今だから、そういう選択肢もあったかもって思うけど。だからある意味クズって気がします。何も考えてなかった。
ヤマシタ:私、もうちょっとクズかな?私は、1回大学に入ったんだけど、半年ぐらいで辞めて、1年間フリーターしてました。そもそも私自身、学校とかに通うってことに向いていないんですよ。もう幼稚園っていうか、その前の幼児期の公園から行きたくなかったんだから。
——公園も行きたくない…。自我の芽生えが早いですね(笑)。
ヤマシタ:不特定多数の人がその「場所」に集まってきてて、その中に放り込まれて人間関係を築いたり、色んなものを自分からやっていかなきゃいけない大学っていう環境がかなり辛くて、もう無理だなって。1年フリーターして、その年の後半ぐらいから画塾通って、美大に入り直したんです。そのフリーター時代が20歳。
ねむ:美大という「場所」は平気だった…?あ、そこは場所で集まったわけじゃなくて、目的で集まってる人の方が多いからいいのかな。
ヤマシタ:そう、 だからまだ大丈夫だった。その前はしんどくて。コンパとか。
ねむ:あ、じゃあ一樹と一緒やん!
(一同爆笑)
ヤマシタ:でも大学辞めた時も、「お金がないことには」と思ってバイトしながら同人誌も描いていたので、収入はなくはなかったよ!
ねむ:うわー、かっこいい!全然一樹じゃない(笑)。でも、お金って小さな生活で収まったらあんまりいらないよね。何かを積極的に欲しなければ、そんなにいらない気がする。生き物としてどうかという所もあるかもしれないけど。
ヤマシタ:仏門に入ったみたいに、欲をなくしているって状態?
ねむ:うん、そんな人もいるよね。私わりと、そういう人の気持ちがよくわかる。別にそんなに色んなものが好きじゃないし、興味もないし。ただボーッとしてたい、みたいな気持ち。
ヤマシタ:なるほど。ただボーッとしてる期間って過ごしたことある?
ねむ:ない。
ヤマシタ:それはさ、ねむさん…。ボーッとすることへの憧れじゃないの? いざボーッとしてみたら「ああ! 働きたい!」ってなるかもよ。
ねむ:確かに…!最近、なんか働くのが好きなのかもしれないと思っているよ。
ヤマシタ:そうだよ。真面目だもん。
ねむ担当:今気付いたんですか?(笑)
——ねむさん以外は全員知っていることでしたね(笑)。
片付けが苦手な大人たち
ねむ:漫画の仕事もそうなんだけど、最近は仕事終わった後に、台所とか「この曜日はこの掃除をしよう」って決めてやるのが楽しくて。働くのが楽しい。
一同:めっちゃえらい!
ねむ:仕事の後に机の上を絶対に片付けるってことを最近覚えて。そうすると…、片付くんだよ(笑)。今まで「なんで机の上こんなに汚いんやろ?」って思っとったけど、片付けてなかっただけだった…。
ヤマシタ:私は、1年くらい前のネームが置いてあったりする…。もう捨てればいいのにね…。今日だって、オーブントースターから出すお皿をつかむためにミトンを探したんだけど、台所のどこにもない。そしたら、仕事机の下になぜか落ちてて。多分昨日使った後に、「運んだ運んだ」ってサッて放り投げたんだと思う。
ねむ:すごいわかる(笑)。
ヤマシタ:目的を果たすと、一瞬で見えなくなるから。そのものを認識できない。
ねむ:なるよね(強い同意)。
——『違国日記』では、掃除が好きな朝と掃除ができない槇生という対象的な2人のシーンがありましたね。朝に「掃除が得意で好き」と言われて、槇生が「そんな人種が…?」と疑問顔をするシーンです。ネームでは「そうじがすき…?」という描き文字はなく、表情のみでした。
△違国日記 第1話
ヤマシタ:世の中には「掃除が好き・できる」人がもっといるから、もっと疑問を強めに出してくださいっていうダメ出しが入るというね。私は世の中の半分くらいが…、いや半分かもうちょっと多いくらいが掃除できないと思ってたけど、たぶんもうちょっと少ないんだね。
ねむ:私も、掃除楽しくなってきたのは最近なので。実家だとかは、誰かやってくれるけど、仕事場とか自分に掃除の責任がある場所に行くと「あ、私がやらないと永遠にここは片付かないんだ」ってことに気付いて…。
ヤマシタ:知ってる!!知ってるけど、今めっちゃ仕事場汚い!
(一同爆笑)
ねむ:仕事場机が片付いてないと、もうあの机の前に座りたくないみたいな気持ちになるから、片付けようと思ったんだよ。
ヤマシタ:綺麗な方がなんかやる気出るよね。知識としては知ってる。
——大人の会話とは思えないですね…(笑)。
ねむ:今片付ける気になってるのは、自然に掃除できる人(夫)と、後から掃除を学んだ人(自分)がいて、気を付けて工夫してやってみるっていう試みが楽しいからなんだよね。
ヤマシタ:そうだ。家づくり、やってるんだったね。
ねむ担当:『ボンクラボンボンハウス』には、ねむさんのDIY実体験がかなり入っていますよね。
ねむ:私はそんなにやってないんですが、夫がコツコツとやってくれてます。
ヤマシタ:家全体を自分達でやろうってすごいよね。
ねむ:最初のうちは、漫画と同じ様に人が手伝ってくれて。水回りの基礎とかもプロにやってもらってるんだけど。(写真を見せる)
ヤマシタ:すごい! 超素敵! コンクリも家で練ってる! ちょっとDIYとかの範疇じゃないね〜!
(ねむ担当注:これから漫画でお伝えしていくので、本編を楽しみにお待ちください!)
記憶を呼び起こすか、感情に共感させるか
——では漫画のお話に戻って。お互いの作品の好きなシーンを教えてください!
ねむ:私は『違国日記』で、食べ物を作るところをあんなに丁寧に描くのに、食べるシーンがすごいあっさりしてる、もしくは描かないっていうのがいいなって思いました。ヤマシタさんは、料理の材料を揃えて見せて、料理シーンが入って、あとはその人の記憶とか感覚が呼び覚まされればいいっていう「ごはん」の伝え方ですよね。
ヤマシタ:作る方で尺を稼いでるんだよ。
ねむ:でも、好きじゃないと描けないかなと思って。
ヤマシタ:そうだね、餃子は好き。餃子のこと考えるだけで、ふうってなるから。
ねむ:私だったら、絶対「おいしい!」って顔まで描く。その顔で共感させる「ごはん」の伝え方をすると思うので。
ヤマシタ:私は、ねむさんのマンガを読んでると、いつもストレートに感情がパーンって出てくるから、すごいなって思うんですよ。私は、やりたいんだけど、気恥ずかしさが立っちゃってできない。「おいしい!」って顔に照れがあるなあって。
ねむ:それ、『違国日記』の朝ちゃんに感じるよ。動物っぽさというか。動物って感情を伝えるために出さないじゃないですか。
ヤマシタ:そうだね。出るだけ。
ねむ:槇生さんもそういう感じあるけど、朝ちゃんが特に。
ヤマシタ:私も感情を伝えるのが結構苦手なので。伝えようって思わないで出た時は、全然恥ずかしくないけど、伝えなきゃって思ったら、なんか、恥ずかしさでうーーーーんってなって。考え始めたらもうダメだ。
ねむ:そうかあ。私は大人になってから「伝えないと伝わらないよ」って、周囲に言われるようになって、わりと気を付けるようになった気がする。
——意識的なんですね。
ねむ:あと、漫画ではストレートに表現するとうまく伝わることがあるので。スムーズに伝えたいところもあるじゃないですか。
ヤマシタ:うんうん。
ねむ:「ここはあんまり滞りなくスッといってほしい」みたいなところは、パッとわかりやすく表現します。
——他にも印象的だったシーンはありますか?
ヤマシタ:全然いいセリフとかじゃないんだけど、この「英語の歌入れていー?」「ダメッ」っていうコマが好き。こんなに気の置けない友達なのに、英語の歌入れちゃダメなんだみたいな。でも、一樹は英語の歌、歌いたいんだなっていう。
△ボンクラボンボンハウス 第1話
ねむ:何歌うんやろうね。
ヤマシタ:テイラー・スウィフトじゃない?
——(笑)。ねむさんはいかがですか?
ねむ:私はこの朝ちゃんを引き取るときのセリフ。自分の中に、美徳とか正しいものとかが、きちんとある人のセリフだと思いました。槇生さんにはそういう強さがあって、良いなって。
△違国日記 第2話
ヤマシタ:この人は小説家という設定なので、言い回しが難しくはなってるんですよね。普通の人が言えることを言えないし、普通の人が言えないことが言えるキャラになりました。
ねむ:あと「あっためられるのってありますか」が良いと思いました。あったかい方が良いんだよ、こういう時、っていう。
ヤマシタ:悲しい時は、あったかいもの食べないとね。疲れてる時も。内臓があったまるとホッとするからね。
ねむ:槇生さんが、人見知りだけど、めっちゃ気遣ってんだなってのがまたいい。
「200万円」の価値
ヤマシタ:あとは、お母さんのっていうのが、大人の感覚だよね。もらった子供は浮かれるけど、きちんと働いて、生活してきて、子どももここまで育ててきた人にとって、というか普通に大人にとって、200万がどれだけの労働かという重みがね。でも、この「大金よ」って言いながら、それを娘のために使ってやろうってところに愛情があるし、お母さんの堅実さを感じて。
ねむ:ありがとう。親御さんが、200万について「どうしよう」ってなってるところで「大丈夫です。この漫画の世界、クズだけじゃないです。」ってちゃんと言いたいです。
ヤマシタ:10代・20代の200万と、30代以上の200万、それと親の200万っていうのは全部意味が違うよね。「200万って大金よ」にはきっといろんな思いが込められているし、すごい大事なことだよって。「一樹、聞いとけ!」って。
ねむ:実はこのエピソードにはモデルがあって。私の友達で、高校を出た時に親から200万渡されて「これを、旅行に使うも良し、学校に行くも良し、好きに使えばいい。ただし今後一切お金を出しません」って言われた子がいて。親が信用してくれてるんだな、すごい良いなって思ったんだよ。
ヤマシタ:うんうん。
ねむ:「200万でなんとかやっていける、っていうかうちにはもうお金ないからね」ってことなんやけど。それをぶつけても大丈夫な子供として、託されたってことでしょう。その子は結局そのお金で専門学校に行ったんです。本当に生命力が強くて、すごい聡い子だったので、一樹にもそういう子に育ってほしい。
ヤマシタ:なるほどね。200万円って使っちゃったら、すぐなくなっちゃうし。何かを始めようと思ったら、すごく大きい。絶妙ですね。
自分の人生を肯定する
——槙生ちゃんも片付けられない人なので、朝ちゃんと暮らせてよかったですね。
ヤマシタ:1人でもね、動くんでしょうけど。違う人生になりますから。
ねむ:あ、そのセリフもすごい良かった。友達が自分の選択を肯定してくれるっていうのが、すごい良かったです。
ヤマシタ:でも、でも槇生みたいな商売の人と普通に友達付き合いが続いている時点で、だいぶ肯定だなって思うけど。
ねむ:わかるよ。「ちゃんとしなよ」みたいな目で、よく見られる。「朝、ちゃんと起きとるの?」って言われて「9時には起きるよ」って言うと、「9時かあ」みたいなことを。
ヤマシタ:ちゃんと起きてるじゃん。
ねむ:うん。でも周りは、もう家族がいて、5時とか6時に起きて子どもを送り出さなきゃいけないみたいな人がいっぱいいるから。
ヤマシタ:でも、人それぞれじゃん。起きる用事がないんだったら、寝ていていいだろうって思うよ。ちゃんと働いているんだし。
ねむ:でも自分が勝手に「だめだ」と思い込んでる節もある。
ヤマシタ:うんうん。毎日会社に行っている人に比べて自分はとか、子どもを育ててる人に比べて自分はってすぐ思っちゃうけど。
ねむ:思っちゃう。
ヤマシタ:「いやいや、私働いている!土日もなく働いている!」と思って、何とか自己肯定。でも、20代の半ばぐらいとかに、同級生とかから「好きなことやってんだからいいよね」とか「ちゃんとしなよ」とか言われて、「えーっ」て思ったり悲しくなることがあったけど、その時、彼女たちは人生の方向を決めるのにすごく悩んでたんだろうなって今は思う。
ねむ:ああ、そうだったのかな。
ヤマシタ:もしかしたら「好きな仕事で生きてる人はいいなー」っていう気持ちから、言ったのかなとか。そうやって思うと、どっちもいいも悪いもないわなって。
ねむ:うん。あるかも。
ヤマシタ:その代わり、社会保障ないからなって。
ねむ:自分で自分の保証を作ってくしかないんだよね。大変だよ。
——最後に、読者の皆さんにひと言お願いいたします。
ねむ:…単行本買ってください!
ヤマシタ:じゃあ私のも。買ってください!
——はい(笑)。率直なコメントをありがとうございました。お疲れさまでした!
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ねむ先生×ヤマシタ先生の対談こぼれ話も順次更新してまいります!
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