河内遙×ジェーン・スー『リクエストをよろしく』3巻発売記念対談「わたしたちのラジオ道」PART.1

(※この記事は2017年11月に公開されたものです。)
株式会社シュークリーム(マンガ編集プロダクション) 2022.07.22
誰でも

「こいつにはラジオの才能がある」――。

相方に逃げられた売れない芸人・ソータ。ある日、ソータのところへ放送作家になった元相方・水無月がAMラジオの美人ディレクターを連れてやってきて!?

明るいマイペース男・ソータに屈折放送作家の水無月、クール系ディレクター雪室ら、クセ者ぞろいの爽快ラジオ群像劇『リクエストをよろしく』(通称『リクよろ』)。

3巻の発売を記念して、作者の河内遙さんとラジオパーソナリティのジェーン・スーさんにラジオの仕事や魅力、『リクよろ』の読みどころを語っていただきました!

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ジェーン・スー

1973年、東京生まれ。ラジオパーソナリティー、作詞家、コラムニストなど、多岐にわたり活躍。主な著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)などがある。

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 PART.1

◆本当にラジオが大好きというのが伝わってくる

――ラジオ番組『ジェーン・スー 生活は踊る』(※TBSラジオで月ー金11時〜13時放送中)のパーソナリティでコラムニストのジェーン・スーさん。今日の対談は、スーさんの大ファンである河内さんの熱烈なリクエストで実現しました。

河内遙(以下、河内):すごく緊張してます。スーさんが対談をお引き受けくださってものすごくうれしかったんですけど、だんだんうれしいを通り越してきて遠足前の謎の憂鬱みたいなものに襲われてしまったくらい(笑)。本当にありがとうございます。楽しみすぎて、ラジオをつけても気もそぞろで聴こえないんですよ。今日も『Fine!!』を聴きながらずっとそわそわ。

ジェーン・スー(以下、スー):えっ。朝の3時から起きてたんですか?(※『Fine!!』はTBSラジオで火ー土早朝3時〜5時に放送されている番組)

――河内さんのスーさんとラジオへの愛が伝わってくるエピソードですね(笑)。実は『リクエストをよろしく』(以下『リクよろ』)は『生活は踊る』で紹介されたことがあるんですよね。

河内:そうなんです。2巻に出てくる「鬼けむし三太郎の音楽びっくり箱」は『生活は踊る』の中で放送している名物コーナー「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」をもとにしているんですね。「ミュージックプレゼント」は毎回いろんな場所を蝮さんが訪問してそこにいる人たちとおしゃべりするコーナーなんですけど、自宅近くで中継された時に現地に行ってみたんです。『リクよろ』1巻をお渡ししたら蝮さんがぽろっと「ラジオのマンガか。俺は出てないのか。描いてくれよ」と仰ったので、あのシーンが生まれました。しかも描いたらラジオの中で紹介してくださって。リスナー冥利につきますね。

単行本2巻より
単行本2巻より

スー:『リクよろ』は、読んですぐに本当にラジオが好きな方が描いているのがわかりましたね。「スタジオのベースになっているのはニッポン放送だな」とか取材をされていることももちろんわかったんですけど、パーソナリティがしゃべる何気ない言葉から河内さんがラジオを日常的に聴いていらっしゃるのが伝わってきました。蝮さんはマンガにはけむしさんという名前で出てくるんですが、定番のセリフがアレンジされて出てきたり、お客さんのいじり方や街の人の返しのうまさもそのまんまで。蝮さんとけむしさんが違うのは、下駄じゃなくて草履を履いているところぐらい。

河内:うれしいです。私はスーさんの声が大好きなんです。お話しされる内容もすごく思いやりがあって。リスナーの悩みに答えるコーナー「相談は踊る」を聴いていると、人に寄り添う言葉の選び方が本当に素敵ですよね。今はラジオも後からでも聴けるようになりましたけど、私は聴きたいものがいっぱいあるのでほぼオンタイムで聴いていて(笑)。ネーム(※マンガの絵コンテのようなもの)を考える時以外は、ほぼ四六時中聴いているような感じなんです。その中でも『生活は踊る』がいちばん好きです。

スー:ありがとうございます。すっごくうれしいです。

河内:スーさんはリスナーに「みなさーん」って言うんですよ。番組の時間帯がお昼だからというのもあると思うんですけど「ちょっとちょっと聴いて、みんな」っていう自然な距離感が聴いていてちょうどいいんです。

スー:『生活は踊る』は昼の番組なので、みんな時計がわりにも使ってくれているんですよね。だから〈生活の邪魔をしない〉ということをすごく考えてます。おしゃべりというのは相手のことを考えてしゃべられていない限り、お蕎麦屋さんで隣の席の人が大声でしゃべってるのがうるさいというのと同じ現象になるわけで、ラジオを切るかボリュームを下げられて終わりですよね。原稿を読むということに関しても、ただ文字を読んでいるだけだと自分に向けられた言葉だって感じる人は少なくて、抑揚とか滑舌とか読み方ばっかり気になって内容が入ってこない。押しつけがましくなく、結果として聴いている人に伝わる放送にするにはどうすればいいのかを考えていくうちに「邪魔にならないということだな」と思ったんです。運転したり、掃除をしたり、子供をあやしたりしている人たちに対してあまり重くなりすぎない、生活に寄り添うぐらいの距離感を保ちたいなと思っています。

河内:ああ、だから聴いていてすごく心地いいんですね。スーさんは色んな時間帯のラジオに出演されてますけど、しゃべりながら意図的に変えていらっしゃる部分はありますか?

スー:そんなに意識はしていないけど、やっぱり夜の放送だと少し親密度が上がりますね。でも、私は普段から一対一で膝つき合わせて誰かといるよりも、しゃべらなくてもいいけど周りに人がいてにぎやかで寂しくないって感じが好きなんですよ。それが自然と出ているのかもしれないですね。

◆ラジオから外の空気が入ってくる

――『リクよろ』の主人公はラジオの仕事に少しずつ魅了されていく売れない芸人・ソータですが、描きながらラジオパーソナリティとしてのスーさんの好きなところを取り入れたりも?

河内:描くのはすごく難しいんですが……。スーさんもそうなんですけど、私が好きなパーソナリティの方々は距離感が絶妙で、聴いているだけで自然と元気にしてくれたりもするんです。たとえばものすごく落ち込んでいて何かしようという気力が湧かない時にも「えい」ってラジオをつけた時にスーさんたちがおしゃべりしているとぐっと大丈夫なところまで引き戻されたりするんですよね。全然関係ないところにいて関係ないままなんだけど、元気づけられるんです。そういうスイッチになるところがすごいなあとしみじみ思います。ソータにも、外の空気がちょうどよく入ってくる感じを出したいとは思っています。

単行本2巻より
単行本2巻より

スー:ラジオは空気チェンジぐらいの感じがいちばんいいんですよね。窓開けて風通しよくするぐらいのことができると、それが邪魔になんない程度ということだから。

河内:ただ、ソータは芸人なんですよね。いわゆる「芸人ラジオ」で人気の芸人さんたちは強烈な屈折が魅力になっていたり負の部分もうまく提出できるところまで磨き上げているような方が多いけど、ソータはそういうタイプじゃない。お笑い好きな人にもラジオ好きな人にも、設定として使ったんだなと思われるだけでは切ないなあって思うけど、笑えておもしろいラジオの魅力……。二重に恐ろしいことを描こうとしているなとは、自分でも思います……。

――放送作家の水無月いわく「ひとりハプニング映像大集合」みたいな、ソータのリアクションはこれまでの河内さんの作品とは全然違っていて、読んでいてつい笑ってしまいます。『リクよろ』は河内さんにとってもチャレンジなんですね。

スー:ソータくんはこれからですよね。外で中継やって、次はコーナーレギュラーが担当できるかどうかっていうところですもんね。それって最速のスピードだろうし。今は周りが彼の特性を見極めているところだけど、これから現場を繰り返していくことでどういうふうな欲がソータくん自身の中に出てくるのかが楽しみです。どう成長していくのか。

河内:ラジオを全く聴かない人にも読んでもらえるマンガにしたいと思って、最初はソータがラジオの仕事を全然知らない状態からストーリーを始めたんです。現実にラジオに出たいと思っている芸人さんたちの数や熱を考えたらソータは十分サクサク進んでいる方なんですけど、そんなにサクセスストーリーにはできないし。迷いながら描いているところです。スーさんが最初にラジオにコーナーで呼ばれるようになったのはどんな経緯だったんですか?

スー:実は私も運が良くてアホみたいに順調なんですよね。最初はアイドルのプロデュースや作詞をやっていた時に高橋芳朗さんの『HAPPY SAD』という番組に出させていただいたんです。それを聴いていたTBSラジオのプロデューサーの橋本吉史さんから『ザ・トップ5』という番組を始めるんでやりませんかって言われて『ザ・トップ5』『相談は踊る』をやって今の『生活は踊る』につながったという感じです。

河内:スーさんのおしゃべりは最初からすっごくおもしろかったと聞いたことがあります。

スー:たまたま合ったんです。「自分の得意なこととやりたいことは違う」と番組でもよく言うんですけど、私はラジオパーソナリティを目指していたわけでも、ラジオのヘビーリスナーでもなかったんですけど、この仕事は得意なことの範囲にすごく合っていた。日常の生活のテンションで行って帰ってこれる現場だったんです。

河内:気負わずにいけたと。

スー:そう。日常生活のルーティンの中でラジオの仕事には入れるんです。テレビは緊張したり、待ち時間が長かったり、まったくもって疲れて。費用対効果じゃなくて苦労対効果が悪い(笑)。テレビは日常のテンションじゃ行けないんですよね。でもラジオはそのままで行けた。

◆仕事の上で視界が広がる瞬間

――これからラジオの仕事を取ろうとしているソータにスーさんからアドバイスをするとしたら何を伝えますか。

スー:なんだろう……。「爪痕を残そうとするな」かな。

河内:おー。

スー:テレビは後から編集ができるのでマイルドにしてもらえると思うんですけど、生放送のラジオだと自己顕示欲が伝えたいことより前に出るとものすごいノイズになると思います。聴いてる人が疲れる放送になるし。

河内:わかります。自分の演出やセンスを見せようって仕込んできちゃうと、ちょっと引いてしまう。人柄を感じさせる人や、話している相手の人柄を引き出せるような人はラジオを聴きながら素敵だなーって思いますね。

スー:今ソータくんは、現場で誰が何をやっているかわかっていない状態じゃないですか。そのうちにスタッフひとりひとりがなんでそこにいるのかが見える瞬間があると思うんですよね。何のためにこの人がここにいるのか、この人の役割はなんなのか、っていうのがわかったときに、わっと仕事の上での視界が広がると思うし、自分の役割というものがはっきりわかると思うんですよね。

単行本3巻より
単行本3巻より

河内:そうなるとがんばりようがありますよね。例えば 、サバンナの八木(真澄)さんとか、ああいう他意のない天然キャラみたいな人で、みんなにずっといじられ続けながらもすごく元気で気持ちのいい方だなあといつも思う人が何人かいて。ああいう芸人さんは決して多くはないと思うんですけど時々いる。見かけるとずっと見ていたいような感じのする人で。描くのは難しいけれど、ソータもそんな風な存在になれればいいなと思ってます。

スー:今は腕をまくって「よーし」って言ってはみたものの、わからないことがいっぱいだと思うんですけど、どこに誰が何のためにいるのかってのがわかれば、きっと変わるんじゃないかな。

――それこそラジオだけではなくてどんな仕事でもそういう「周りが見える」ようになる瞬間って大事な気がしますね。ソータの覚醒が楽しみです。

 PART.2は7月29日公開予定です!お楽しみに!

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