今の日本には、子供を祝福する文化がないーー漫画家・ねむようこ×担当編集の妊娠出産のはなし/『君に会えたら何て言おう』発売記念対談②

2020年4月8日(水)、ねむようこさんの単行本『君に会えたら何て言おう』が発売されました!ねむさんと担当編集による発売記念対談②は、妊娠時代を振り返って「妊婦さんを助けてほしい」と祈るような内容です。
株式会社シュークリーム(マンガ編集プロダクション) 2022.03.04
誰でも

緊急事態宣言が7都府県に発令され「妊婦の出勤停止と所得補償を」と求める女性約400人の要望が厚生労働省に提出されました。この不安な日々を、すべての妊婦さんがどうか少しでも安全に過ごせますように。

★ねむようこ https://twitter.com/nemuyoko2018年8月に女児を出産。漫画家。代表作に、実写ドラマ化もした『午前3時の無法地帯』はじめ、『トラップホール』ほか多数。産後、2019年4月から執筆を再開し、現在『神客万来!』(芳文社)を連載中。初夏から始まるFEEL YOUNG新連載を鋭意準備中。
★担当編集・K成 https://twitter.com/ame_kimagure2018年12月に女児を出産。編集プロダクション・株式会社シュークリームにて『FEEL YOUNG』『on BLUE』等の漫画を編集。ねむさんの作品は『三代目薬屋久兵衛』『ボンクラボンボンハウス』『君に会えたら何て言おう』を担当。産後、2019年4月から職場復帰。

今の日本には、子供をシンプルに祝福する文化がない

ねむ 妊娠中は、偶然ですけど命のやりとりをすごく身近に感じることが重なっていました。『君に会えたら何て言おう』の本編と同じように、お母さんが癌になっちゃったんです。猫も、結局私の産後に死んじゃったんですけど、妊娠中も一回体調を崩したことがあって。何もかも死ぬんだなってことが、初めて実感として得られた気がします。

K成 私も、流産の翌年にまた妊娠できて、幸い無事出産できましたが、妊娠中はちょっと動かないとすぐ「あっ、死んでしまったんじゃないか」と思ってしまって不安でした。

ねむ わかる…。無事に生まれてきてくれたし、元気に育ってくれているけれど、子供はまだまだ常に死と隣り合わせだもんね。めっちゃ脆いっていうか、危ういっていうか、ギリギリの状態。でもたぶん、生きてることのほうが変な状態なんだよね。たまたま生きているだけで。

K成 妊娠中は、生きていることは確率が低いことの組み合わせなんだな、とすごく感じました。なのに、「妊娠は病気じゃないから特別視しなくていい」みたいな論調があるじゃないですか。

ねむ あれ、意味わかんないよね。だって妊婦は、崖から落ちそうな人の手をずっと握っているみたいな状態じゃん。そんな人がいたら、まずは助けてよって話じゃん。そんな時に、病気じゃないからとか言えるの?

K成 妊婦さんが普通に歩いてたら普通に見えちゃって、命のやりとりをしてることを忘れちゃうんですよね、きっと。

ねむ あっ、ふと思ったんだけど、大きいお腹でゆっくり歩いてると偉そうに見えるのかなあ?

K成 そ、そんなことで…?そういえば、見え方ということでは、電車で席を譲られた後に、しんどそうなポーズを結構してしまいました。携帯を見てたりとか、健康そうにしてはいけないんじゃないかみたいな。

ねむ その時にしんどくなくたってぜひ座った方がいいよ!妊娠に限らず、助けを必要としている人はかわいそうな雰囲気を出していないといけない感じありますよね。かわいそうだから助けるんじゃなくて、困っているから助けるってなればいいのに。

K成 本当ですよね。「こうあるべき」を押しつける空気をなくしたい。

ねむ うんうん。妊婦時代、存在してるだけでめっちゃ大変だったよね!お腹が重い、体が重いって、それだけで速く動けんのよね。すごいゆっくりしか歩けないのよ。

K成 ね!それに、急いで動いて万一倒れた時のことを思うと、怖くて速くなんて歩けないですよ。

ねむ 無防備だよね。この皮の下に命がいるのよ~という。とはいえ、妊婦さんに親切にしたいのにできない人もいっぱいいるとは思うんです。手助けしたいけど嫌がられるかもしれないとか、どうするのが正しいのかわからないとか思ってる人。まずは席を譲ればいいと思います。

K成 そして、席を譲って断られたとしても傷つかないでほしい。

ねむ 傷つきやすいんだよね。

K成 あと、妊婦さんの手助けをしてくださいという話になると、「好きでやってるくせに」って言う人がいるじゃないですか。本当に意味がわからないんだよなあ…。

ねむ その理由で叩いてくる人って、妊娠の時が一番多い気がするんですよ。たとえば、漫画家が〆切に追われてきついって言ってても「好きでやってる仕事なのに文句言うな」とは言われない。なのに、妊婦さんが言われてるのなんで? あと、「好きでやってるけど苦しい人」って手助けを求めたらいけないの?

K成 そんなわけないですよね!

ねむ 100歩譲って好きでやってることだとしても、妊婦さんが「助けてほしい」って言っているのは自分よりも赤ちゃんのことを言っているから、子供を助けるつもりで手伝ってほしい。

K成 わかります。もう赤ちゃんはそこにいるけど、簡単に死んでしまう可能性が高いから、それを忘れないでほしい。というか、妊婦さん自身だって、健康そうに見えたとしても妊娠前より免疫力が落ちてて、感染症にかかりやすくなってるんですよね。だけど、胎児へ影響を及ぼす可能性があるから、病気になっても薬も飲めない。踏んだり蹴ったりとはこのことですよ!本当に守られるべき存在だということをもっと知ってほしい。

ねむ どうしたって特別な時だから。どうやったら伝わるのかと思って漫画を描いたけど、やっぱり伝えきれんかった。あの特別感とか、めっちゃ危ういって危機感とか。なんか漠然と嫉妬の対象になっている気がする。幸せなくせに、その上手助けを求めていると思われるのかな。〆切に負われる漫画家は幸せそうじゃないですもんね(笑)。

K成 たしかに漫画家さんはつらそうです(笑)。でも妊娠だって、もちろん有り難いことではあるし幸せもあるけど、しんどいのになあ。

ねむ 生まれたばっかりの娘を抱っこしていろんな所にいったけど、外国の人のほうがポップにかわいがってくれたな。今の日本には、子供ができたことをシンプルに祝福するっていう文化がないなと思いました。

K成 えっ……。つら…。やば…。ショックで語彙を失ってしまいました。

ねむ もちろん身内にはあるけど、身内でも場合によっては気を遣ったりするし、手放しで「おめでとう~ハッピ~!」という感じじゃない気がして。外国の人はわりと国を選ばず、妊娠や、小さな子がそこにいることを「ハッピー!」「素晴らしいこと!」と無条件に言ってくれた。 日本でもおばあさんやおばさまたち、おそらく子を持った経験のある人は気軽に祝福してくれたんですけど、そういうところから遠い人は妊娠出産や子供についてどう接していいかわからないという感じのような気がします。

K成 ああ、妊娠前の私はまさにそうだったと思います。もっと祝福を表に出せれば良かったな…。子供を祝福する文化がない国って悲しすぎますもんね。そりゃあ少子化待ったなしなはずだよ。

ねむ でも、多方面に気を遣った結果そうなってしまうという気がせんでもない。

K成 同調圧力と忖度の文化よ…。

マタニティマークよりヘルプマーク

ねむ マタニティマーク変えてほしいですよね。

K成 私、実はねむさんが仰るほどピンときてなくて。何が気になりますか?

ねむ あのピンクの可愛らしい雰囲気がちょっと苦手というか…。手持ちの服にも合わないし。ヘルプマークがいいと思う。

K成 対象者は「援助や配慮を必要としている方」で、妊娠初期の方が想定されてますが、妊婦さんは時期に関わらずヘルプマークをつけていいということですよね。

ねむ そうそう。よりわかりやすい方がいいから、マタニティマークが推奨されてるんでしょうけど。 人がつけてるマタニティマークは有り難いんですよ。妊婦さんがいるなら、何かあった時すぐ助けてあげたいから。マークの意義はすごくいいけど、自分がつけるのはやっぱりちょっと嫌だった。ヘルプマークくらいシンプルになってほしい。 助ける側としては言ってほしいけど、言う側からしたらやっぱり自分の状態を人に知られるのは、ちょっと気持ち悪いなって思う。

K成 本当ですよね。自分の内臓の状態を不特定多数の他人に知られるのを避けたい…と思うと、ヘルプマークの方が使いやすい。妊娠かどうかは一見わからないけど、助けが必要な者です、ということですね。ヘルプマークの裏に妊娠って書いておけば、いざという時にはそれを見てもらえばいいんだから。

ねむ マタニティマークって「私は妊婦ですよ」って言ってるだけだから、自慢ととられることもあるみたいだし、「妊婦だから何?」って思う人もいるかもしれないけど、「ヘルプ」だと「手助けがほしい」ってダイレクトに言ってるからネーミング的にもいい気がする。

K成 妊婦さんはいつでもヘルプが必要な対象であるってことを、世間がいまいち知らないから。今回の新型コロナウイルスでも、「風邪の症状や37.5以上の発熱が4日以上続いたら相談」というのが基本方針だけど、「高齢者・基礎疾患がある人・妊婦は2日以上で」と明示されているのを見て、「そうなんだよ!妊婦さんは普通の健康な成人とは違うんだよ!」と思いました。

ねむ 本当にそうだよ!健康面に不安がある弱者なんだから、常にヘルプなんですよ。マタニティマークで「はあ?」って思われるくらいなら、常にヘルプマークでいいと思う。

K成 妊婦さん側に「常にヘルプじゃない」っていう思いの人がいるかなあ?

ねむ その人はマークをつけないんじゃないですか。妊婦さんの自認がどうであっても、助ける側は常にヘルプだと思っていたらいいですよね。

K成 そう思います!そういう意識を浸透させたい。

妊婦という生き物にされる

K成 今まで言ってきたことと相反するようですが、妊娠中に特別扱いされたくない気持ち、私は結構あったかもしれません。妊娠したからって、即働けない人として見なされたくなかった。いま客観的に振り返ると休めよって思いますけど、それも同調圧力というか…。

ねむ それは会社員だとあるかもね。

K成 優しい会社なので、実際はそんなことなかったと思うんですけど…。あと、つわりが終わって安定期に入ったら、健康を取り戻した気になってバリバリ働いてしまって。日記を読み返したら午前3時とかまで働いていて、自分にドン引きしました。

ねむ わかる。できるって思ってまうもんね。しかも、できる自分にちょっと酔ってるんだよね。

K成 その通りです!その自分をかっこいいと思ってる節がありましたね。恥ずかしい!!!寝ろよ!とぶん殴りたい。

ねむ いや~、でも怖いよ~。社会から切り離される怖さ。

K成 そう。妊婦という型にはめられたら、社会ではもう私の意志を尊重されなくなるような気がしていました。

ねむ 妊婦という生き物にされる。

K成 まさに…。自分の好きなように仕事をして、幸い健康に子供を産めたから結果的にはよかったんですけど、結果論でしかないし。妊婦である自分をもっと受け入れられたら、違うように過ごしたかもなと思います。

ねむ 実際どんどん仕事できる量は減って、出産前に終わらせようと思った仕事は終わらず…。でも、残っている仕事がなんか社会復帰のためのお守りみたいで、それはよかったなと思いました。『ボンクラボンボンハウス』の最終回のネームまで行ってて、後は原稿だけの段階だったけど何ページか残していましたね。

K成 残していたと言っても十分に早巻きでしたからね!? だから全然休みなく掲載させていただいて、読者の方には産休と思われなかったと思います。

ねむ 妊娠したいと思い始めた時から、仕事を減らしていたんです。自分でその調整ができたのは自営業のいいところでもあるし、仕事を調整しようと思えたし実際できたのは、やっぱりこの年だからという気がして。

K成 キャリアの積み重ねがあってこそですよね。

ねむ だから、もうちょっと体力があれば育児が楽だったとは感じるけど、やっぱり必要な年月だったと思う。38歳で産むなんて、ちょっと前までは高齢出産だったと思うけど、今やもう全然普通ですもんね。

K成 全然普通ですよ!むしろ時勢に合っている。私も、ある程度仕事をがむしゃらにしたと思えた後だったから、妊娠して復帰しても仕事は大丈夫と思えたんだろうなあ。

ねむ で、出産して4月まで休んで…。そしたらもう保育園に預けてバリバリ仕事できると思ったけど、それもちょっと違ったよね。お母さんて皆すごすぎん?

K成 お母さんたちは本当に全員えらい。でも、ねむさんは相当バリバリだと思いますよ!? 執筆できる時間が物理的に減ったとは思いますが…。

ねむ 本当にそれ。時間がないのが一番大変です。保育園には本当に感謝しているけど、月~土で預けようと思ってたところ、土曜は協力保育だからできれば来てくれるなという感じなので、結局月~金だし、そのうちの半分は15時半にお迎え。で、土日はもう何もできない。

K成 それで月刊連載2本って…。本当に凄い…。

ねむ でも、ページ数そんなに描いてないから。だって月産36ページとか。いや、でもここからですよね!

K成 そうですね。うちの連載が16ページから32ページに戻るから…。大丈夫でしょうか…!

ねむ  やってみよう。がんばります!

→③へ続く。第3回目は2022年3月5日更新!

\ 2020 年 4 月 8 日(水)発 売 !!/

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