『25時、赤坂で』斉藤壮馬×佐藤拓也×原作者・夏野寛子 BLアワードW1位記念鼎談(part.1)
ーー夏野寛子「人生で起こるとは思っていなかった結果をいただけて、本当にありがたいです。」
夏野寛子先生の『25時、赤坂で』が、BLアワード2023で「BESTシリーズ」「BEST BLCD」それぞれの部門で1位を受賞しました。さらに、「BEST BLCD声優」部門では『25時、赤坂で』のドラマCDで本作の受・白崎由岐を演じる斉藤壮馬さんが1位、攻・羽山麻水を演じる佐藤拓也さんが2位を受賞。これを記念し、夏野先生、斉藤さん、佐藤さんの対談が実現しました。作品についてはもちろん、俳優BLである本作にちなみ、役者としてご活躍されているお二人から“お芝居”にまつわるお話をたっぷりしていただきました。
<プロフィール>
夏野寛子(なつの・ひろこ)2016年『冬知らずの恋』でデビュー。2作目である『25時、赤坂で』が大ヒット。2023年1月には『25時、赤坂で』と世界観がつながる新作『アバウト ア ラブソング』も上梓した。
斉藤壮馬(さいとう・そうま)2010年声優デビュー。代表作に『ヒプノシスマイク』(夢野幻太郎役)、『アイドリッシュセブン』(九条天役)、『ハイキュー!!』(山口忠役)、『憂国のモリアーティ』(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役)、などがある。
佐藤拓也(さとう・たくや)2007年声優デビュー。『ジョジョの奇妙な冒険』(シーザー・ツェペリ役)、『アイドリッシュセブン』十龍之介役、『刀剣乱舞』(燭台切光忠役)、『憂国のモリアーティ』(アルバート・ジェームズ・モリアーティ役)、などがある。
二人のお芝居を聞いてスペクタクルだった
ーー『25時、赤坂で』BLアワード2023複数受賞おめでとうございます! まずは率直なお気持ちからお聞かせください。
夏野寛子(以下、夏野):本当に光栄です。人生で起こるとは思っていなかった結果をいただけて、本当にありがたいです。斉藤さん、佐藤さん含め、いろんな方のお力があっての受賞だと感じています。
佐藤拓也(以下、佐藤):僕もただただ光栄な気持ちです。しかも、1位が壮馬くんというのがめちゃめちゃ嬉しい。実は、『25時、赤坂で』出演のオファーをいただいた時、「相手役は斉藤壮馬さんです」と聞いて、壮馬くんとお芝居ができるんだ!とオファーをお引き受けした経緯があるんですよ。
斉藤壮馬(以下、斉藤):僕も、さとたくさん! 待ってました! 早く抱いてくれ! と思いながらオファーを受けました……!
佐藤:あら、恐縮です(笑)。
斉藤:これまでお仕事で関わってきた方とお芝居をさせていただく機会をいただけたことが嬉しいのはもちろん、作品がとても素敵で。役者として関わりたいと思わされた作品が、こうやって皆様に「素敵だな」と思ってもらえたこと、自分も微力ながらお力添えできたことが何よりも嬉しい。素晴らしいご縁をいただけたこと、とてもありがたいです。
ーー夏野先生は、白崎が斉藤さん、羽山が佐藤さんに決まった時、どのように思われましたか?
夏野:ドラマCDのお話をいただく前、友人から「もしドラマCD化するなら、佐藤さんと斉藤さんがいいと思う」と言われたことがあるんですよ。
佐藤&斉藤:えぇ! すごい!
夏野:その時は、私のマンガは絵に頼っているところが大きいマンガだという自覚があったので、ドラマCDの実現はないだろうなと思っていて、友人には「そんな贅沢なキャスティングがあっていいのかな!?」と返していたんですよ。そしたら本当に実現してすごく驚きました(笑)。
同時に、『25時』のお芝居をしていただく前から、お二人とも品のある声の方という印象があったので、決まった時は絶対素敵だろうなと。
ーー実際にお芝居を聞かれていかがでしたか?
夏野:最初の収録に立ち会わせていただいた時、かなり衝撃を受けました。私は表情を描く時にいつも“嬉しい”と“悲しい”の間の感情を細かい目盛りで調整する、みたいな感覚があって。例えば、眉毛は少し下げる、目は少し伏せる、口は少し開ける……とか。想像上の声も「“嬉しい”と“悲しい”の間は5目盛りくらい」と考えて描くのですが、その目盛りと同じ表情の声がする、すごい! と感激しました。プロの方だから当たり前なのですが、私としてはスペクタクルだったんですよ(笑)。
佐藤&斉藤:スペクタクル(笑)。
夏野:斉藤さんの演じる白崎由岐は、朴訥とした中に斉藤さんの持つ張り詰めた声が入ることですごく白崎由岐だなと感じました。あとくるくる細かく変わる表情が本当にかわいくて。真顔でとぼけたことを言っている様子なんかがありありと伝わるので、音で聞く白崎ってこんなに魅力的なんだ!と新鮮でした。
羽山麻水はずっとローで表情の幅が狭すぎるので、演じるのはすごく難しいだろうなと思ったんですけど、佐藤さんが上品に演じてくださる。生きている人の細かい表情、目線の動き、息遣い、それらを全部拾ってくださるんですよね。キレイな人ではあるのだけれど、佐藤さんの温度感が乗っかって、羽山麻水に人間的な深みが出てありがたかったです。
佐藤:原作者の先生に目の前で言っていただくと、嬉しいけど恥ずかしい(笑)。
ーー先生大絶賛ですね! ちなみに、斉藤さんは白崎、佐藤さんは羽山に対してどのような印象を持っていましたか?
斉藤:由岐くんは自分にあまりない要素を持っている人だったので、率直に難しい役だと思いました。でも、難しいというのは楽しいということでもあります。当たり前ですが人が人を演じるので、どうしても自分が滲み出てしまう部分はあるんです。だから、“どこまで自分を消せるか”というせめぎ合いを試させてくれる、チャレンジングなキャラクターだと感じました。
だって、由岐くんってちょっと変じゃないですか? 麻水さんもですけど(笑)。
佐藤:そうだね(笑)。
斉藤:でも変な人って、「自分が変」という自覚を持って生きていないんですよ。本人は普通だと思っているのに周りから見ると独特、というのを果たして表現できるだろうかってワクワクしました。
佐藤:僕も初めて原作に触れた時、「あ、難しいな」と思いました。羽山麻水は、自分の望みに関わらず見出されてしまい、どんどん人生のステップを上がっていった人です。だけど僕自身は、白崎くん側の人間なんですよね。お芝居という好きなことで、どう自分を世の中に成立させていくか、からスタートする人間だったから、麻水をどう捉えていけばいいのだろうと。正直最初は、僕でいいんですか? と思ったところから始まりましたね。
でも、3枚のドラマCDで麻水を演じてきて、壮馬くんのお芝居によって「もっとこうしていいんだ」と気づかされています。それは、白崎くんによって麻水が自分を自覚していく過程と同じかもしれません。
夏野先生、前世は俳優だった説が浮上
ーーお芝居をされているお二人からすると、やはり『25時、赤坂で』の登場人物たちに共感してしまうことはありますか?
佐藤:「分かる!」って思っちゃうところはありますね。カメラの前にいるオンの時と、カメラがないオフの時の温度差、表情の変化の描き方がものすごく丁寧なんですよ。どういう風に取材をされているのかなって思います。
斉藤:たぶん前世系でしょうね。「あー、何周目か前のあの時のあれか」みたいな。
佐藤:「私、これ知っているな」っていうやつね(笑)。
夏野:ははは(笑)。お二人にそう言っていただくのはありがたいですけど、実感は本当になくていつも恐る恐る描いています。
斉藤:それくらい本当に絶妙なんですよ。大学時代、麻水さんに<羽山さん 演技仕事しないんですか? どうかしてますね>と言っちゃうイキリ具合に、僕はもう「あ、あぁーーー!」って頭を抱えてしまいますもん(笑)。
佐藤:若さゆえの「なんかもうすみません……!」っていうやつあるよね。言った方は忘れているけど、言われた方はめっちゃ覚えていることってあるんですよ。
斉藤:めっちゃ覚えていますよね! 美しさを感じると同時に、そういう細部のリアリティはお芝居として拾い上げやすかったです。
佐藤:うん、自分の人生と照らし合わせることができるからね。僕は3巻の白崎くんの舞台稽古のシーンを読んで、自分だったら死んでしまいたくなる!と思いました(笑)。演出家に役者としての商品価値、自分自身の人間性を言い切られてしまったら、どう立ち上がればいいんだと。さらに、稽古の見学に来ている若手に「彼のセリフ 代わりに読んで」って……。キツイ! と思った(笑)。
斉藤:あれは抉られるセリフですよね。大ごとですよ。自分が1番できていないと分かっている時に、<マンションのところからでいいですか>って主人公みたいに出てくるんですもん。
佐藤:「稽古場に行ったら主人公になってしまった件」みたいな(笑)。あれは見ていて本当に苦しいシーンでしたね。
夏野:お芝居のお仕事をしているお二人に、そんなセリフを読まれてしまったことが、最初は胃が痛かったです(笑)。見当違いなことを言っている可能性もありますから。もちろん担当さんが協力してくださって現場に近い方へ取材をさせていただくこともあるのですが、自分の好きな作品やお芝居を作っている方のインタビューやドキュメンタリーなどを見たり読んだりするのも好きだったので、今まで拾ってきたものを無意識に汲んでいるのかもしれません。
あと、マンガを描いて生きている人も、若い頃にイキっていることは普通にあるので(笑)。
佐藤&斉藤:あははは(笑)。
佐藤:あと僕は、2巻で麻水が自分の演技を見返した時、<タメが長いな>と思っているシーンがあるんですけど、めっちゃ分かる!と思いましたね。演じている時は「それが正解だ」と思っているのに、客観的に見た時に「もっとこうした方が良かった」と思うことってあるんですよ。
夏野:お二人は自分の出演した作品を見返すことってあるんですか?
佐藤:自分が見なくても多くの人たちが見聞きする現実があるので、できる限り見たり聞いたりしています。
斉藤:逃げても仕方ないですからね。今はあまり言わないと思うのですが、昔は「オンエアで恥をかけ」とよく言われていたんですよ。本当はベストなOKじゃないけれど、あえてOKを出して、オンエアを見させてできていなかったと気づかせる。
佐藤:言われていましたしね。時間的な制約もあるから、「足りないけどこれくらいでOKにしておこう」とされてしまうことは実際にあります。
夏野:客観的に見た時に、「ダメだった」と受け入れられるものなんですか?
斉藤:受け入れるしかないと思っています。僕らは音響監督さんにディレクションをしていただいてお芝居をするわけですけど、収録ブースで理解できなかったディレクションが、出来上がったものを見てみると理解できることがあるんですよ。「みんなはこのイメージを共有できていたのに、自分はできていなかった」って。そこで大切なのは、逃げたり諦めたりするのではなく、できていなかったと自覚することなんです。
佐藤:そこで「自分の芝居を分かってくれなかった」とへそを曲げてしまうと何も変われないんですよ。「ごめんなさい、自分が間違ってました」と受け入れることで、初めて変わることができると思っています。
夏野:そうですよね……。受け入れる力があるから第一線で活躍されているのだろうなと思います。
【part.2へつづく】※2023/4/7公開予定
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