「睡眠とあと食事を推しにすべしです(笑)。ガソリンの入っていない車は走れないですからね。」━━2021年・ヤマシタトモコに『違国日記』のことを聞いてみよう⑤

2021年10月30日(土)に行われたオンライントークイベント「ヤマシタトモコに『違国日記』のことを聞いてみよう2021」今回が最終回です!今回は、なぜ『違国』なのか?タイトルの裏側も…!? 
ヤマシタ先生が制作で使用する道具から、自らの睡眠と食事まで、これまでの経験が語りで炸裂しています! ファン必見の内容盛りだくさんとなっておりますので、ぜひぜひ最後までお楽しみください!
株式会社シュークリーム(マンガ編集プロダクション) 2022.01.20
誰でも

ヤマシタトモコ Tomoko Yamashita 2005年デビュー。2010年、「このマンガがすごい! 2011」オンナ編で『HER』が第1位に、『ドントクライ、ガール』が第2位に選出される。『さんかく窓の外側は夜』が実写映画化&TVアニメ化。小誌連載中の『違国日記』は「マンガ大賞2019」第4位&「マンガ大賞2020」第10位ランクインほか、「第7回ブクログ大賞」のマンガ部門大賞を受賞。第24回文化庁メディア芸術祭(2021年)のマンガ部門「審査委員会推薦作品」に選出され、各メディアで話題沸騰中。

ノートは文明の利器

――以前に話を伺ったときに、誰かに見せることを前提とせずに書き込まれた手帳を見たいと言っていました。買い取れるものなら買い取りたいって。 

ヤマシタ 独自の略語で予定が書かれているとか、その人のためだけに機能している手帳じゃないとダメなんですよ。誰かの目を意識している可能性がある日記だとか、公開を前提してないものが見たいんです。でも、SNSはSNSで何をどこまで見せようかという逡巡があるので、それはそれで好きかな。 

――ご自分ではスケジュール手帳は使われていないんですよね? 

ヤマシタ 使えないんですよ(笑)。使ってみたこともありますが三日くらいで挫折しました。仕事の予定は常に変わるし、手帳の存在を忘れちゃうし、自分の字が嫌なのと書き損じが許せないタイプなので、すぐに心が折れてしまって。色ペンなどを駆使して上手に使っている方は頭の中も綺麗に整頓されているんだろうと思って羨ましいです。なので、自分のスケジュール管理はアプリでやっています。

――ネタ帳の書き損じは気にならないのですか?

ヤマシタ ネタ帳は出てくるものをただ書いているだけだからいいんです。手帳は整理して書かれていないとダメという思い込みがあるのでしょうね。ネタ帳自体、『違国日記』で初めて作ったんですが、それまではその辺にある紙に書き散らかして、原稿を描き終わったら捨ててしまっていたので見返せなかったんです。こういうことを考えていたのかという発見もできないわけで、ネタ帳だと以前に書いたものはもちろんそのまま残っているので、文明の利器...!って思いました(笑)。

――ノートのありがたみを実感したわけですね。 

ヤマシタ 学生時代も授業でノートを取ったりはしていなかったんですよ。忘れ物をすぐにするので持ち物を増やしたくなかったのもあって、全部教科書に書き込んでいました。 手元に残るノートの便利さをいい大人になってから実感しました(笑)。 

――次の新作を立ち上げる際もノートはひきつづき利用しますか?

ヤマシタ 文明の利器を知った人類になりましたので(笑)、これからも使うと思います。

――ネタ帳はスケジュール管理のように、アプリでは代用できないもの?

ヤマシタ スマホのメモ帳に思いついたことを書いておくこともありますが、今回は何を描こうかと考えるのは自由に矢印を引いたりできないとダメなので、手書きじゃないと。外出中とか寝る前にパッと思い浮かんだことを残しておくのにスマホのメモ帳は便利だったりするので、それはそれで使っています。 

――ネームに取りかからなくてはいけないとき以外でも、ネタ帳をパラパラと見たりはされるのですか?

ヤマシタ 事前に前のことをちょっと思い返しておいたほうがいいなと思ったときは、ネタ帳やスマホのメモを見返します。そのたびに書いたことを覚えていなくてびっくりするんですが、意外といいことが書いてあるんですよね(笑)。それを見て、へーっと思ったときに思いつくことも稀にあったりするので、本当は疲れるからやりたくないんですが、見返すようにはしています。

なぜ『違国』なのか

――聞き忘れるところでした! 『違国日記』というタイトルはいつ決まったのですか?

ヤマシタ 知らない...。

――知らない?(笑) 

ヤマシタ 知らない(笑)。

担当 一話のネームをいただいたときはタイトルが書いてありましたよ。 

ヤマシタ タイトルが決まらないとネームを描き始められないので、ネームの1ページめに「1」と番号を振ったら、まずタイトルを考えるところから始めるので...。

――では、ネームに取りかかるぞとなったときに考えた?

ヤマシタ そう...じゃないかなあ。 

――自分の中でテーマや話の雰囲気がなんとなく見えてきたら浮かぶ感じなのでしょうか。考えないと、あえてこの漢字で『違国』とはならないですよね?

ヤマシタ これは本当にアホみたいな話をしますが、この作品のことを考えるちょっと前くらいに『ファイナルファンタジーXIII』をプレイしていて、『FF13』だと政府のことを「聖なる」のほうの漢字を使って「聖府」と書くんですよ。そういうのがめちゃめちゃ好きで!(笑)聞き慣れた言葉にあえて違う漢字を使って、ダブルミーニング的な効果をもたらすというのが子供の頃からいまだにカッコいいと思っているので、ちょっと影響されたかもしれませんね。それに、検索もしやすいでしょ?

――『FF13』の聖府由来だとは予想もしませんでした(笑)。

ヤマシタ 今ちょっとネタ帳を見返していたのですが、3話からはプロットとして書かれたものがあるんですが、1話と2話についてはプロットが見当たらないんですよね。このイベントの最初でもどうしてああいう構成になったか覚えていないとお話ししたかと思うんですが、確か...どちらも最初に考えていたネームは今のものとは全然形が違っていて...なんか思い出せそうな気がしてきた...けど...。

 ――なんとか爆破した瓦礫を集めて思い出してください。 

ヤマシタ 集めるー。えーと...コメント欄がプリキュアを応援している子供たちの声みたいになってますね(笑)。

――「がんばれー」一色ですね(笑)。

ヤマシタ 断片的にしか思い出せませんが、最初は葬式の場面から始まるネームを考えていたんですよ。槙生が葬儀に参列していて、ポケットに入れていたスマホで起動しっぱなしだったらラジオアプリから音楽が小さく漏れ聞こえてくるのを横に並んでいた朝が耳にして「ラジオ」と口にする。 ハッと気づいた槙生がラジオを消して「耳がいいなあ」と呟く、みたいな場面をネームにしてみたのですがしっくりこなかったのでボツにして。

そのパターンも2回くらい書き直したかな、お寺の庭で槙生がタバコを吸いながらラジオを聴いているパターンとか。結局、葬式の場面から始まるのは面白くないと思ったのでそれは2話に回すことにしたのかな。それでちょっと時間も先に進めて今の1話のネームになったんじゃないかと思います。

ヤマシタ 完成したのとは全然違うトビラを描いてますね。

担当 これは、雑誌掲載時にカラーがつきますからモノクロで始まるのはダメですよとお伝えした結果です。 

ヤマシタ あ、そうでした。だから急遽カラー分のページを足して再構成してネームができあがったあとに、冒頭のカラー1ページのモノローグを考えたんだった。 ...このネーム、ものすごくしっかり描いてるな!

――それは新連載の第一話だからでは?(笑) 

ヤマシタ あー、そうですね。まだ担当さんともこれがどういう話なのかちゃんと共有できていない時期だから、しっかりめに描いたんでしょうね。それにしてもちゃんとしていてびっくりした(笑)。2話もまだちゃんとしてますね。 

――連載序盤ということもあり、担当さんや読者へのプレゼン的な意味合いもあるからだったりします? 

ヤマシタ それもあるかもしれません。あとは自分用の仕様書の意味合いもありますね。まだ自分の中でも固まりきっていないので、ここはこう描くつもりというのを細かく書き添えているんだと思います。1話、2話にモノローグが多めなのは、この話はポエティックなモノローグと雰囲気満載で押していきますよ!というお知らせも兼ねているかな(笑)。

――モノローグといえば、時折その場面での朝のものとは違う、もう少し大人になっているであろう朝の俯瞰的なモノローグが入ることがありますが、ああいったものを要所要所で入れていくのは最初から構想にあったことですか?

ヤマシタ それは、はい。 そのときのまだ子供な朝の心情では語れないこともあると思ったので、そこをカバーする意味合いで入れていくつもりでいたと思います。

睡眠と食事は大事

――お仕事や趣味などで忙しいかと思いますが、睡眠時間はしっかり取れていますか?

ヤマシタ 8時間は寝てますよ。睡眠の大ファンなので(笑)。 

――いちばんの推しは睡眠。 

ヤマシタ 推し変なしです。私は諦めがいいほうなので、できないときに頑張ってもダメだと思っちゃうんですよ。 ネームや作画の作業中に、あと5ページ頑張れば終わる状況でも眠かったら寝ます。そこでやっておいたほうが次の日すっきり作業が始められるとわかっていても、寝ます。苦しいことが先送りになるだけかもしれないけれど、そこでちゃんと睡眠を取ったほうが苦しむ量は減ると思うんですよね。 

担当 漫画家の方に限らず、ガス欠で頑張りすぎてしまって体を壊す人もいると思うので、それは響く考え方だと思います。 

ヤマシタ そんな頑張り方はブラック企業が推奨しているやり方ですよ。ブラックなやり方の中で自分を追い詰めても仕方がないので、睡眠とあと食事を推しにすべしです(笑)。ガソリンの入っていない車は走れないですからね。私個人のことでいえば、健康云々というより睡眠と食事がとにかく好きなので、好きなことを疎かにしたくないというのが睡眠と食事を重視しているいちばんの理由なんですけど。

「運動は好きじゃないんですか?」というコメントをいただいていますが、やれば気持ちいいことは知っているし、美しい筋肉もつけたいと思っているので軽い筋トレはしたりしています。以前にやっていたリングフィットアドベンチャーをまたやりたいとも思っているんですが、まず汚い部屋を片付けなくてはいけないので、そこで二の足を踏んでいます。とりあえず最近は一日に1時間ほど歩いていますよ。

――何かアプリを使ったりしていますか?

ヤマシタ いえ、ひたすら歩いています。歩くだけで楽しいんですよね。歩いていると無心になるというか、脳みそが自由になる気がして気持ちもよくて。なので最近は、軽い筋トレとストレッチと、仕事場から家に帰るときに1時間ほどかけて歩いて帰っている。これが私の日々の運動です(笑)。 

――最近は韓国語も熱心に勉強されていますが、コメント欄に「なんでですか?」と。 

ヤマシタ 昔からわりと韓国映画が好きだったのですが、急に熱が再燃したんです。オタクなので、好きになった作品についてはどんどん深堀りしたくて、特典映像やコメンタリー目的で本国版の円盤を入手しても、英語字幕すらついていなくてわからないんですよ。これを理解したいというのがきっかけなんですが、そこまではまだまだ遠い道のりです。教材になっている映画やドラマのジャンルが偏りすぎていて、警察や検察、容疑者という単語は知っているのですが、この間ようやく『恋人』を知りました(笑)。

 ――お勉強もですが、ネームも頑張ってください(笑)。

ヤマシタ あー…頑張ります(笑)。

 ――では、長い時間ありがとうございました。参加してくださった皆さんもいろいろな場所からご参加いただきありがとうございます。 

担当 状況が落ち着けばサイン会やお顔が見える形でのイベントなども企画できればと思っていますし、 こういったオンラインのトークイベントもまたやっていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。 

ヤマシタ みなさんの顔が見られなかったり、笑い声が聞こえないのは残念ですが、いろいろと書き込んでくださったコメントを見られるのは楽しかったです。こういう形のイベントもいいなと思いました。

 ――では、最後にヤマシタさんから読者の方にメッセージをお願いします。 

ヤマシタ いつも似たようなことばかり言っているんですが、これからも頑張って描いていきますので、読んでやってください。よろしくお願いいたします。

 ――本日はありがとうございました。

「2021年版・ヤマシタトモコに『違国日記』のことを聞いてみよう」全5回の連載、 お楽しみいただけましたでしょうか? 『違国日記』はFEEL YOUNGで絶賛連載中!!    今後もどうぞお楽しみに!

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