河内遙×ジェーン・スー『リクエストをよろしく』3巻発売記念対談「わたしたちのラジオ道」PART.2

(※この記事は2017年11月に公開されたものです。)
株式会社シュークリーム(マンガ編集プロダクション) 2022.07.26
誰でも

「こいつにはラジオの才能がある」――。

相方に逃げられた売れない芸人・ソータ。ある日、ソータのところへ放送作家になった元相方・水無月がAMラジオの美人ディレクターを連れてやってきて!?

明るいマイペース男・ソータに屈折放送作家の水無月、クール系ディレクター雪室ら、クセ者ぞろいの爽快ラジオ群像劇『リクエストをよろしく』(通称『リクよろ』)。

3巻の発売を記念して、作者の河内遙さんとラジオパーソナリティのジェーン・スーさんにラジオの仕事や魅力、『リクよろ』の読みどころを語っていただきました!

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ジェーン・スー

1973年、東京生まれ。ラジオパーソナリティー、作詞家、コラムニストなど、多岐にわたり活躍。主な著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)などがある。

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PART.2(PART.1はこちら

◆おしゃべりは得意だったけれど

――今日は対談の前に『生活は踊る』の収録を河内さんと見学させていただいたのですが、本番10秒前でもみなさんごく普通におしゃべりされていて、すっと番組に入られるのでびっくりしました。

ジェーン・スー(以下、スー):そうなんですよ。やっぱり、生活なんですよね。聴いてる人もそれぞれ普通に生活しながらじゃないですか。「早くお昼ご飯こないかな~」とか思ったりしつつ、とりあえず何かやりながら聴く感じ。だからこっちも肩肘はらずにやっていきたいなと。

河内遙(以下、河内):とっても現場の雰囲気がよくて、アイコンタクトとかのコミュニケーションも多い感じがしました。チーム感というか。

単行本2巻より

単行本2巻より

スー:まさに、ラジオってチーム仕事なんです。実はサラリーマンの時と働き方はあんまり変わらない感じがしています。たまたま私が前に出てるか、後ろに引っ込んでるかの違いだけで。あと、一人も嫌な人がいないというのはうちの番組の自慢です。一人でも手柄を独り占めしようとする人がいたら雰囲気が悪くなるのはどの仕事でも同じだと思うんですけど、みんながいいものを作ろうと思ってくれてるんでやりやすいし、私も期待にこたえなきゃって思います。

河内:素敵。スーさんは、小さい頃からおもしろく話すことが好きだったんですか。

スー:自分ではよくわからないところもあるんですが、好きというか、得意なほうだったんでしょうね。人が私の話を聴いているぞっていう感覚はなんとなくありました。でもそれ自体が喜ばしいことかっていうと、またそれともちょっと違うんですよ。みんなでしゃべっていると、気がつくと話をしてる人と聴いている人になっちゃって会話になっていない時があったりするのが自分でもすごくいやだったり。

河内:ワンマンステージになってしまうような不安とか……。

スー:そうそう。私の押しが強いのかなとか、話を横取りしちゃってるのかなとかいろいろ思うこともあったし。

河内:そういう葛藤もあったんですね。

スー:レコード会社で働いている時に、プロモーションをがんばってやっとラジオの5分間のゲストに出してもらってるのに担当アーティストが的を射ないしゃべりをすることについて「なんで真面目にやってくれないんだろう」って腹を立てたこともあったんですよ。やっぱり圧倒的に上手い人と下手な人がいて。でも、真面目かどうかの問題ではなくて、得手・不得手だったんだなってやっとわかった気がします。

河内:本当にそれは気づきの幅で。できるからこそ、スーさんには話すべきことが見えてたんでしょうね。向き・不向きの話をうかがっていて思い出したんですけど、私はスーさんの書かれるエッセイもすごく好きなんです。スーさんのラジオを毎日聴くようになったら、エッセイがスーさんの声で聴こえて(笑)。そういう人いませんか。

スー:いますいます(笑)。

河内:すごく読みやすいんですよ。私は活字を何でもいつでも読めるタイプではないんですけど、スーさんの文章はラジオを聴くような感覚で読んで、意味もおもしろさもすっと伝わってくる。

スー:ありがとうございます。

河内:私は子どもの頃からずっと少女マンガ家になりたかったんですけど、それはマンガをいっぱい描けば自分が透明になれるんじゃないかと思っていたからなんです。すごく思春期っぽくて恥ずかしいんだけど、自分自身を煙に巻けるんじゃないかって思ったんですね。自分で色んな物語を描いたりキャラクターを出したりしても、マンガ家だったら「この中には私はいません」と言えるような気がしてすごく憧れた。でもエッセイは一人称で、読者に呼びかけながらも、作者であるスーさん自身がどう思ったかをおもしろく伝えてきてくれますよね。スーさんのエッセイを読みながらしみじみ、これがパーソナリティ向きということなのかなあと感じ入りました。

単行本1巻より

単行本1巻より

スー:自分では向き・不向きってよくからないんですけどね。多分それって周りの人が最初に気がつくものだから。ただ、もともと得意な人はそれ以上伸びないという可能性もたくさんあるなって思うんです。反対に「どうしてもできるようになりたい」って練習した人の伸び代は無限大なんでしょうね。たとえばダンスとかでも、もとから身体能力が高くて見たらパッと踊れちゃう人というのは実は踊れていないですよね。細かいところの基礎ができていないから。基礎から徹底的に練習して踊れるようになってきた人の踊りは、やっぱり全然違う。

河内:ああ、そうか。努力した人とは、理解度が違うんでしょうね。

スー:全体的なバランスとかかっこよさって基礎ができてるかできていないかで大幅に違うので、しゃべりもそうだよねって。私も気をつけなきゃいけないなとは感じています。おしゃべりに関しては他の人よりもやりたいようにできてしまうところがあったので、どこかでつまずくだろうとも思うし、基礎ができてないことで今後伸び悩むこともあるだろうなと覚悟しています。そのときが来たらどうするのかは決めてないんですけど。

◆ラジオパーソナリティという仕事

河内:今はラジオパーソナリティとエッセイストと作詞家がメインで仕事をされてますけど、スーさんはまた全然違う仕事をする可能性もあるんですか。

スー:そうですね。ここへ行こうと思って来た道ではまったくないので。ぼーっと流されていたら「この流れは枝とかが詰まってどうしてもこの場所にゴミが溜まるんだよなー」っていう中州に着いちゃった感じ(笑)

河内:あはは。現時点でパーソナリティは長く続けたいと思ってますか。

スー:求められれば、がんばりたいです。ラジオパーソナリティは、私が色々やっている仕事の中でも一番、やってほしいと言われて初めて成立する仕事だと思います。コラムは売れなくても書きたいことがあれば書いていればいいし、それをインターネットに載せればいいしと思うけれど、ラジオはそこにスポンサーもいてリスナーがいて会社がいて。しかも非常に数が限られた人しかできない仕事なので、やっぱり求められるのが前提っていう仕事だと思うんですね。

河内:やりたい人もたくさんいる中で、一握りの人しかできない仕事。

スー:そうなんですよ。そこで、「なりたい人に申し訳ないです」とは言わないですけど……。アナウンサーもそうですが、パーソナリティは発注がないと働き場所がなくなる。求められるうちは一生懸命やりたいなと思ってます。なんやかんや課題が出てくるので、課題をクリアしたいなという思いがあるうちは続けていくと思います。ただ、できるだけ長くこの場所にいるためにしがみついていくというのは違うだろうなと。やりたくないということではなくて、発注ありき。

河内:マンガ家はラジオパーソナリティに比べれば、なるだけなら結構たくさんなれるから、しがみついていく感じもあるかもしれないな。

スー:「ラジオパーソナリティをやっている自分を死守しなきゃ」という思いがあるわけでもないんです。言い方がすごく難しいところなんですけど、歌いたいことがあるから歌手になる、伝えたいことがあるから演者になるとかじゃなくて、歌手っていう状態で他者から承認される自分が好きな人もいるわけじゃないですか。

河内:目的と手段が逆になっちゃう。

スー:そう。「パーソナリティをやっている自分はすごくかっこいい」とか「等身大の自分自身から底上げされている」とか「価値のある人間であるような気にさせられる」という感覚を持ってしまったら、よろしくないなと。そこは書く仕事でもないんですけど。仕事をやっていて突然微熱が出たりとか落ち込んだりとかしない、いつものテンションでやれる仕事をやってきたようなところはあります。

河内:日常の感覚でいけないと毎日の仕事として続けられないですよね。

◆チーコには報われてほしい

――『リクエストをよろしく』は、まさにお仕事マンガでもありますよね。

スー:そうですよね。私はアイドル・チーコちゃんの仕事が今後どうなっていくのかがすごく気になってます。キラキラした新しい後輩が出てきちゃったし。

――3巻の読みどころのひとつは、チーコのプロフェッショナル精神ですね。

スー:みんなの前では泣かない「鉄壁のアイドル」というね。私は、チーコちゃんには他局に行ってほしいですね!

単行本3巻よ

単行本3巻よ

河内:わー、なるほど(笑)。おもしろい!

スー:今いるところでは評価されなかった人が、他の場所で評価されるっていうカタルシスを読みたい。わかったふりになっていたミキサーの松戸くんが実は全然彼女の良さをわかっていなかった、みたいな。他の人がパーソナリティとしてのチーコちゃんの魅力をガンガン引き出して「俺にはできなかった」と最終的に落ち込んでほしい(笑)。勝手なこと言っちゃってすみません! でも今は、チーコちゃんの方が有名なんだけど松戸くんの方が若干優位でずっときてますよね。こういうタカをくくった男をギャフンと言わせていただきたいな。思うに、チーコちゃんの方がたぶん仕事に対して真摯だと思うんですよ。

単行本3巻より

単行本3巻より

――彼女の仕事に向き合う姿勢、すごくかっこいいですよね。松戸くんはミキサーなのでチーコの声が気になっているんじゃないかというエピソードも出てきますが……。

スー:でも新しい子の番組が始まるし、松戸くんはそっちで忙しくなると思うんですよ。で、いろいろお留守になっている間にチーコちゃんは別のところでバーンと新しい番組が始まって、聴いたらめちゃめちゃいいし、とかなるといいなー(笑)。彼女にはちゃんと報われてほしいなと思いますね。

河内:ありがとうございます。チーコだけじゃないんですけど、女の子のキャラクターを描く時は、いつもちゃんと大切に描くようにしなきゃと思うんです。男の子はどういう風に投げかけても、例えばダメな奴であっても読者に嫌われないという感じがするんですけど、女の子のキャラクターは「あれ?」って思うところがちょっとでもあると寄り添いにくくなっちゃう気がして。みんなが応援できるように描きたいと思ってます。

――女性のキャラクターといえばディレクターの雪室さんも重要な存在ですよね。そもそもラジオのディレクターというのは実際にはどんなお仕事なんですか。

スー:ディレクターは番組の制作をする人なんで、生放送だったら放送中はミキサー卓の前に座って台本通りに番組が進行するように舵取りをします。放送前の準備段階では放送作家と相談して台本を書いたりかける曲を決めたりもする、いわゆる制作者です。実はパーソナリティがすべて選曲している番組はそんなに多くないんじゃないかな。『生活は踊る』は特殊な形なので、選曲は音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんにすべてお願いしてるんですけど。

河内:今日の選曲もすごくよかったです! 雪室さんは、元お笑いコンビだった放送作家の水無月とソータの二人を引き上げようとしているディレクターなんですけど、実際にラジオで「大抜擢」みたいことが起こる時はディレクターの方がすごく推すという話を聴いたことがあって。お笑いの舞台を本当にたくさん見に行ってらっしゃるディレクターさんもいるみたいですよね。そこで「あの人に単発でコーナーをやらせてみよう」となったりとか。

単行本2巻より

単行本2巻より

スー:そうですよね。みんな気になる人がいたら声をかけているんじゃないかな。局によって事情は違うとは思うんですけど、基本的に新しいしゃべり手がいて困ることはないので常に探していると思いますよ。次世代を探してこないとラジオはどんどんオールドメディアになっちゃいますから。

河内:仕事のチャンスやタイミングは色んなところにあるんだなあとつくづく思います。放送作家の仕事についても伺いたいんですけど、ラジオの台本ってどれくらいあるものですか?

単行本1巻より

単行本1巻より

スー:人にもよるし、番組によっても全然違うんですよ。一般的にこれっていうのはないですね。それこそ大沢悠里さん(※TBSラジオで30年続いた冠番組『大沢悠里のゆうゆうワイド』を担当。現在は『大沢悠里のゆうゆうワイド 土曜日版』を放送中)の台本はキューシート(※放送順序や時間を記した進行表)しかない。放送作家さんは番組をより面白くしてくれる役割を担っているんですが、説明するのがすごく難しいですよね。ざっくり言うと、番組全体の構成を組み立てて台本に起こしてくれる人。企画のアイディアを出したり、番組内で読むメールを選んでくれたりもします。

河内:台本には流れとか挨拶とかがあって。

スー:そうですそうです。コーナーだけ放送作家さんが台本を書いている時もあれば、基本的には放送作家が全部原稿書いてるよって時もある。ラジオの台本は生ものなんですよね。同じ放送作家という仕事でもパーソナリティとか番組の構成、スタッフによってやることが変わるんです。

河内:ラジオの台本は人ありきなんですね。

PART.3は8月2日公開予定です!お楽しみに!

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