町麻衣 連載10周年インタビュー Part 2
今回はそれを記念して、改めて町麻衣先生にデビューや連載までの道のりや作品について伺いました!
1週間くらい段ボールの上で寝てました
——フィール・ヤングでは結構読み切りを描いてますよね。
町 はい。最初に載ったのは「まよわないでよ」(単行本『一世の一生』収録)っていう男子高校生が担任の先生を好きになる話です。その前もいろいろ描きましたね。代原(代理原稿。何らかの事情で雑誌のページが開いたときに掲載する)の需要が結構あって、4ページや8ページのネームを結構送ってました。
『一世の一生』(B6判)
——4ページや8ページってページ数は少ないですけど、その分話をまとめるのが大変ですよね。それをどれくらいのペースで送ってたんですか?
町 あんまり覚えてないですけど、月1本は描いていたと思います。最初は、4ページや8ページでお願いしますと担当さんに言われて、そんな短いページで何を描けば…と思っていたんですが、今思うと話をまとめる練習に大いに役立ったと感じでいます。感謝です。その時代に短編でシリーズもので続いた漫画が「ボーイッシュシリーズ」です。(『一世の一生』収録)
——その後が初連載の『はしっこの恋』ですか。
町 はい。『はしっこの恋』は「そろそろ連載できたら」なんて話をしているときに読み切りのアイディアとして出した話です。
『はしっこの恋』①(B6判)
——『はしっこの恋』の酪農家の娘と漁師の息子っていう関係がリアルに描かれていますね。
町 育った地域がちょうど、農家も漁師もいるという感じだったので、取材は友人や地元の知り合いに聞くとかでできて、あるあるみたいな話はあまり苦労せずに描けました。でも、カップルストーリーとしてまとめに入ると「さあ、どうしよう」って困りましたね。
——恋愛もの自体フィール・ヤングで描くようになってからなんですよね。
町 そうですね。だから、恋愛の部分が難しかったです。
——『はしっこの恋』のころもアシスタントをしながら描いていたんですか?
町 ずっと三宅乱丈先生のところでやらせてもらってました。でも、ちょうど『はしっこの恋』の途中あたりで上京しました。
——東京で連載に集中しようと?
町 私の先輩アシスタントさんが人員を探しているということで。
——でも結構急な話だったんですよね?
町 ですね。だからちょっと不安だったんですけど、ずっと漠然と東京に住みたいと思っていたのでチャンスだな、と。ただ、引っ越しのとき荷物を安い船便で送ったんです。船便が遅れて布団とかの荷物が届かなくて、1週間くらい家で段ボールの上で寝てました(笑)。
——船便ってそんなに遅れることあるんですか!?
町 遅れました。幸い10月だったんで東京はまだ割と温かい時期だったので助かりました(笑)。
——ただ、担当編集さんに当時の話を聞いたら、荷物とは関係なく「町さん、いっつも薄着だったからすごい心配だった」って言ってました。
町 お金がなかったから(笑)。あと、個人的にはあんまりニットとか着る文化で育ってなかったんですよね。トレーナーとかで過ごしてたんで。しかも、北海道の場合室内はすごく暖かいんで、本当に冬も部屋では半袖の瞬間もあったりするから、室内で暖かいものを着てるのって東京っぽいなって思って見てました。
「面白くない作家だ」って思われたくなくて書いた「おっぱい触らせて」
——さて、ようやく本題ですね。その後『アヤメくんののんびり肉食日誌』がはじまったわけですが、これはどういうイメージから生まれたんですか?
町 『はしっこの恋』が終わって、次の連載なり読み切りなりの打ち合わせをしようって担当さんと打ち合わせをしたんですけど、当初考えてたアイディアがあんまり担当さんに響かなくて。それで、端の方に特に深い考えもなくメモしていた「おっぱい触らせてくださいと言う爬虫類の研究者」っていうのを話してみたら「いいですね」って話になって、そこから生まれました。
——あのシーンが最初に出てきたイメージなんですね!にしても、どこから出てきたんですか、その発想は(笑)。
町 前日に打ち合わせ用に書いたものですね。「こいつ、面白くない作家だ」って思われたくないから、いろいろ出さなきゃと思って苦し紛れに書いたうちのひとつですね。
——でも、絶妙な組み合わせですよね。セリフもですが、「爬虫類の研究者」とかもなかなかパッと出てこないですよね。
町 子どものころから恐竜が好きだったんですよ。漫画ではいつも自分の好きなものを題材にしていて、それまでも楽器とか好きなものをいろいろ描いていたんです。三宅乱丈先生にも「恐竜好きなら恐竜の話描けばいいじゃん」って言われてたんですけど、恐竜の話っていったらSFっぽいものしか思いつかないからフィール・ヤングで描けるわけないって思ってたんですよね。
——恐竜って割と男の子は「かっこいい!」って感じで好きになったりしますけど、町先生の場合はどの辺に惹かれてるんですか?
町 「かっこいい」なのかなぁ?今存在しないっていうSFっぽさが好きなのかもしれないです。図鑑とかボロボロになるまで見てましたね。
——15巻に収録される初期のメモも見せてもらったんですが、これも面白いですね。椿先輩、最初は「みさと」って名前だったんですね。
町 エヴァのミサトさんが好きだからってだけなんですけど、当時隙あらばこの名前使おうとしてました(笑)。名前は現実的なものが好きなので、学校の友だちの名前を使わせてもらったりしています。アヤメくんも高校の同級生の名前なんです。
——そうなんですか?珍しい名字ですよね。
町 そうそう。一応本人に許可をもらって使わせてもらいました。
桐生が出てきてから仁英さんを描くのが楽しくなった
——性格はどういうふうにつくっていったんですか?たとえば、椿先輩の「死んだ生き物は好きだけど生きている生き物は苦手」とか、ちょっと新鮮でした。
町 あれは取材した方のお話からです。東大の生物系の研究室を取材させてもらった時に、そういう方がいて、ギャップが興味深くて椿の参考にさせていただきました。椿の場合は大げさですが。生き物に興味を持って探求したい人=生き物を愛でたい人ではないんだなと。
——取材から生まれたキャラクターは多いんですか?
町 海部さんなんかは完全に研究者さんをモデルにしてます。
——海部さん、福井県立恐竜博物館の職員というキャラクターですね。
町 『アヤメくん』スタートのころから取材させていただいている河部壮一郎先生がモデルです。河部先生は今は大学の先生をやりつつ、福井の恐竜博物館でも働かれています。
——まさにそのままなんですね。
町 海部さんはビジュアルも本人にかなり寄せて描かせてもらいました。でも、他はあんまりいないですね。
——『アヤメくん』の登場人物たちはそれぞれクセも強いですしね。でも、そこがかわいさにもなっているのが面白いなと思います。
町 アヤメや仁英はまずは見た目としてイケメンに見えるように気をつけて描いています。やっぱり恋愛マンガなので、ちゃんとかっこいいって思ってもらえないといけないですから。その上で、ちょっと笑えるシーンがあるとかわいく見えるのかなって思って描いています。ドジだったり笑われたりするような……
——三枚目の部分を見せる、と。それは仁英さんなんかでも感じますね。
町 そうですね。仁英は最初のころはあんまり三枚目の部分がないんですけど。
——登場当初は割と怖かったですよね。
町 仁英は結構苦労したキャラクターで、アヤメくんと対になるかっこよさを持ったキャラクターを出そうと担当さんと相談してつくったんですけど、私自身もちょっと不満があったんですね。だけど、桐生が出てきていじめられるようになってきてから描くのが楽しくなりました。
——わかります。桐生さんが出てきてから仁英さんはかわいさが出ましたよね。
町 桐生が出てから仁英・桐生は人気が出ましたね。仁英はドSというコンセプトで考えたんですけど、私自身は支配してくるようなタイプの男性キャラは描きたくないし引き出しになかったみたいでうまくいきませんでしたね(笑)。
——確かに『アヤメくん』ではそういうタイプのキャラクターはいないですよね。
町 結果、ツッキーが一番Sっぽいキャラクターに(笑)。
——ツッキー先輩、いいですよね。『アヤメくん』はいわゆる脇役のキャラクターもみんな個性的ですが、脇役のキャラクターづくりは好きなんですか?
町 どうなんだろう?私は最初青年誌を目指していて、青年マンガは脇役もみんな濃いってイメージがあったので、そういうふうにしなきゃと思って描いてはいました。顔も脇役はみんな似たような顔ってならないようにしてます。
Part 3に続く
(インタビュー・文/小林聖)
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120万部突破!恐竜オタクの超マイペース研究室ラブコメディ!!
家が火事になった仁英は、急きょ桐生の部屋に転がり込んだ。ジャンクフード三昧に夜もお盛ん…と、本能にまかせた同棲生活を送っていた2人は、気づけば風邪で寝込んで絶望的な状況に。セフレ以上恋人未満の2人の次なる距離感は…?
T大の大学院進学が決定した椿は、学部の卒業式を迎える。なぜかアヤメは椿の父とメル友になっており…?
『アヤメくんののんびり肉食日誌』15(B6判)
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