『25時、赤坂で』斉藤壮馬×佐藤拓也×原作者・夏野寛子 BLアワードW1位記念鼎談(part.2)

演者は演者をどう演じるのか?
ーー斉藤壮馬「ガッツリ掛け合いができるから、その場でしか生まれないものがあって。」
株式会社シュークリーム(マンガ編集プロダクション) 2023.04.07
誰でも

夏野寛子先生の『25時、赤坂で』が、BLアワード2023で「BESTシリーズ」「BEST BLCD」それぞれの部門で1位を受賞しました。さらに、「BEST BLCD声優」部門では『25時、赤坂で』のドラマCDで本作の受・白崎由岐を演じる斉藤壮馬さんが1位、攻・羽山麻水を演じる佐藤拓也さんが2位を受賞。これを記念し、夏野先生、斉藤さん、佐藤さんの対談が実現しました。作品についてはもちろん、俳優BLである本作にちなみ、役者としてご活躍されているお二人から“お芝居”にまつわるお話をたっぷりしていただきました。

【part.1はコチラ

ーー斉藤さんが共感した、印象に残ったシーンやセリフもぜひ教えてください!

斉藤:ドラマ『昼のゆめ』の撮影で由岐くん演じる拓海が<「好きです」>と言うシーンですね。麻水さんへの恋心を自覚した後、自分の感情が漏れ出てしまう、あのセリフ。彼は役者であるがゆえに、「これは芝居だから!」と不器用に思っているのだけれど、だだ漏れなところにキュンと来てしまいます。由岐くんは役を演じているのに、自分の感情が漏れ出てしまうシーンやセリフが多いんですよね。中でも<「好きです」>のシーンはどうやって表現すればいいんだ!?と思いました。

僕は常々言っているんですけど、『25時、赤坂で』は目が本当にキレイで。作品に描かれているものがすべてだから、それを音声化するのはとても難しいんですよ(笑)。

佐藤:そうなの。セリフのないコマの表情も表現しなければいけないから、それをどう作ろうかと毎回心砕きます(笑)。

斉藤:それくらいふと引き込まれてしまうコマ、シーン、セリフがものすごくたくさんあるんですよね。当たり前ですが、僕らは原作の良さを声でどう表現するかを重きに置いているので、聞いてくださる皆様にこうやって評価いただけるのは本当に嬉しいことなんですよ。

佐藤:本当に嬉しい。

斉藤:あとは、3巻で麻水さんが嫉妬しているシーンには、しめしめと思いました。麻水さんのような人が嫉妬しているのが美味しいんですよ。普段落ち着いている人が急に爆笑したり、驚いたり、怯えたりするところにキュンとくる。そういうところが見たかったんです、麻水さん……!って。先生は麻水さんのことを「表情の幅が狭すぎる」とおっしゃっていましたけど、今はもうね……?

佐藤:だって、それは白崎くんがさ……!

斉藤:麻水さんが出てきちゃっている(笑)。

夏野:ふふふ(笑)。

佐藤:白崎くんは1巻の序盤から、<端正な顔が 丁寧に歪められていくのを見るのが好きだった>って言ってたじゃん!(笑) まんまとやられちまっていますよ……。

斉藤:白崎由岐、小悪魔説ありますね。

佐藤:本人は気づいていないかもしれないけど、麻水はかなりかき乱されていますよね。

斉藤:由岐くんに掴まれちゃっていますよね。

夏野:描いている時は「本当にこれでいいのかな」と思うのですが、ドラマCDでお二人に演じていただくことで初めてそういうシーンに対して「え、かわいい!」と気づかせてもらえるんですよね。3巻で羽山麻水がバーで怒っているシーンとか、白崎由岐に相談されなかったことに拗ねるシーンとか、ドラマCDを聞いたら、もっと羽山麻水を困らせなくちゃと思いました(笑)。

佐藤:ひぇー(笑)。でも僕も、2巻で山瀬に煽られて、<調子に乗るのは 俺と白崎くんのキスシーン見てからにしてくれるかな>と言うシーンがすごく好きなんですよ。

斉藤:大好き! あれは名言だと思う。

佐藤:あの撮影後に隠れて白崎くんとキスしていたところを山瀬に見つかってドヤ顔しちゃうところもいいんですよね。第一印象は完全無欠の完璧超人だと思っていたのに、いろんな表情を見せてくれるようになるから面白いですよ。

斉藤:間違いない。ギャップの塩梅が絶妙なんですよね。にやにやしながら読んでしまいます。

ーー夏野先生は、ドラマCDを聞いていて、印象に残っているシーン、セリフはありますか?

夏野:お芝居をするお芝居のシーン、例えば2巻の『昼のゆめ』の撮影で羽山麻水がカメラが回った瞬間、<…あれ>って涙を流すシーンはどう表現するのか全く想像ができなかったんです。なので、ドラマCDを聞いた時、さっきまで普通に話していたのに急に崩れていく感じが、すごく新鮮でした。

夏野:また、3巻で白崎由岐が舞台稽古の時に何度も同じセリフで詰まって直されるところは、同じセリフの中に「なんか違う」という細かいニュアンスを拾っていろんなバリエーションでお芝居してくださったり、最終的に舞台上で上手くできるようになるシーンは、羽山麻水との会話を思い出しながら演じる白崎由岐の心情が表れたセリフにしてくださったり……とても感激しましたね。

演者は演者をどう演じるのか?

ーー劇中劇、例えば『昼のゆめ』のシーンでは、拓海を演じている白崎、涼二を演じる羽山を演じるのか、拓海、涼二を演じるのかでいうと、どちらなのでしょうか?

斉藤:『25時、赤坂で』ではどちらも使っていますね。由岐くんがお芝居ができる時とお芝居ができていない時と分けていて。上手くお芝居ができていない時は「由岐くんが演じようとしている」というアプローチをしていますが、上手くお芝居ができる時は”演じる”という意識を飛び越えて“その人として喋ること”が大事だと思っています。例えば、1巻の『昼のゆめ』では、演技的に喋るよりも普通に喋ることを意識してみたことが、自分的にも挑戦してみたつもりです。

とはいえ、「この時の由岐くんはお芝居ができていないからこう」と決め切るわけではなく、グラデーションではあるんですけどね。由岐くんと向き合って自然と使い分けられていく感じというか……さとたくさんはいかがですか?

佐藤:仕事中の羽山麻水は俳優として与えられたことをこなす、ただそれだけしか考えていなかったですね。彼のマネージャーさんが<何考えてんのか未だよくわかんないし サイボーグみたいで>と言っていますけど、まさにその通りなんですよね。

ただ、それこそカメラが回った瞬間、<…あれ>って涙を流すシーンは、僕自身は何も想像しないようにしようと思いました。羽山麻水という一人の人間が、雑念を持ってしまったことにより内面がグチャグチャで「仕事に集中しよう」と考えている。そんな中、白崎くんの<涼ニさんと会えなくなっちゃうんだ>という言葉を聞いた後にどんな感情を抱いて麻水が芝居をするのかというのは、すごく無責任なことを言ってしまうようですけど斉藤壮馬演じる白崎由岐がどう来るのかだな! ここは現場だな! と思いましたね。

斉藤:そう言っていただけるのは一番嬉しいことですよ。こういうシーンは、対話するしかないですからね。

佐藤:そうそう。特にこのシーンは羽山麻水と白崎由岐の関係性の中で、これまでの役者・羽山麻水を飛び越えてくるシーンだろうと思っていたので。

斉藤:僕がBLドラマCDで好きなところってまさにそこなんですよね。ガッツリ掛け合いができるから、その場でしか生まれないものがあって。不思議なもので、「今、対話しているな」と普通に喋っている感覚になるという。

佐藤:アニメや外画吹き替えのアフレコは演じる役の息遣いに自分の正義をはめていく仕事だけど、BLドラマCDはその場で生まれる刹那的な空気感がそのまま収録されていくと思っていて。だから、上手にこのセリフを言ってやるぞ! が成立しないんです。気合いを入れていることが、透けて見えてしまう。“芝居は人間性が出る”とよく言われるのですが、僕らの関係性がそのまま出てしまう、おもしろくも恐ろしい媒体だと思います。

斉藤:僕は基本的に俯瞰しながらお芝居をするタイプなのですが、掛け合いをしているとすごく役にのめり込んでしまう瞬間があるんですよ。

佐藤:そうなった瞬間って見ている側からすると、めっちゃ気持ちいい。

斉藤:いや、あなたと掛け合いしている時のことですからね!(笑)

佐藤:あははは(笑)。僕も思っていますよ。『25時』の言葉を引用するなら、「斉藤壮馬の歪んだ顔を見るのが好き」ですから(笑)。

一同:あははは!

斉藤:先生はマンガを描く時って感覚的にのめり込むタイプなのか、ロジカルに俯瞰しているタイプなのか、どちらなんですか?

夏野:俯瞰していることもあるし、感覚的なところも大きいし……どうなんでしょう?

担当編集:ロジカルに打ち合わせして感覚で描いていらっしゃいますね。

斉藤:一番理想的ですね! 役者も台本チェックはロジカルに考えるけど、マイクの前に立ったら1回全部忘れるのが理想だと思っていて。

佐藤:めっちゃそう。いろいろ考えた上で、あとは現場!となるのが一番いいです。

斉藤:(深く頷く)あと、ドラマCDに関して個人的には、セリフではない部分、息遣いから瞳の揺らぎに至るまで、どう表現しようかと一番試せる媒体だと思っています。

佐藤:そういう意味では、お芝居をしている時の無言の間って演じる側も見る側も不安になると思うのですが、ドラマCDに関してはその間にいろんな逡巡があるから不安にならないんですよね。

夏野:自分が描いた作品を演じていただくと、ことさらに「このセリフの前のこの息で、この気持ちをフォローしてくれているんだ」ととても細かく見ていただけていることに衝撃を受けます。想像できない範囲まで拾っていただけているんだなと。

1巻の最初の収録で音響監督さんに「今のセリフ、もう少しだけ怒った方がいいと思うんですけど」と聞かれた時、もう少しだけ怒るなんてこと可能なんだろうか?と思ったんですよ。私には想像ができなかったので、そのディレクションで進行していただいたのですが、ほんのちょっとだけ怒る表現が目の前で繰り広げられていて。自分に見えていない解像度で声を扱っている職業なんだと思いました。マンガを描いている方、みんなに体験してほしい! と思ってしまいました(笑)。

佐藤&斉藤:あははは(笑)。

斉藤:4巻では先生が声優デビューするというのはどうでしょう! ロジカルにチェックしていただいて感覚で演じていただきたい(笑)。

佐藤:いいね! (4巻を読みながら)どの役がいいかな?

夏野:楽しんで聞けなくなってしまうので、それだけは勘弁してほしい……(笑)。それならお二人にもどこかの背景を手伝っていただこうかな……(笑)。

佐藤&斉藤:それはちょっと!(笑)

(文・阿部裕華 )

【part.3へつづく】

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